「ディスカウントの時代は絶対来ない」

ディスカウントストアが急成長していますが、この動きはもっと広がるのでしょうか。

鈴木:日本に本当にディスカウントの時代が来るか。私は「絶対来ない」と言い続けているんです。構造的に難しい。日本では地価が高いから、店舗コストが米国とは全く違う。売上高人件費率は日本も米国も大体同じですが、店舗費などの固定費が高いから、売上高がちょっと下がると、損益に大きく影響する。非常に経営が難しい。

 それから、デリバリーのコストだって、道路がこれだけ混雑していますから、東京の端から端まで持っていくのに、昼間だと何時間もかかってしまう。米国だと、東京から下関ぐらいの距離のところを毎日、平気で配送しているわけでしょう。米国と日本はバックグラウンドが全然違う。物価問題を米国と同じように考えるのはナンセンスです。そういうインフラから考えていかないと。流通をどうこう言って片付く問題ではありません。

長期計画は持たないということですが、ビジョンはどうなのですか。

鈴木:ビジョンは持たなければいけない。僕は最初にセブンイレブンを何店舗にするかという考え方は全然しなかった。ただ仮に1000店舗になっても通用するシステムにしようと考えたわけです。ヨーカ堂にしても、今の1兆5000億円の売り上げが3兆円になった時にどうするのか。その時、どういう商品をどう調達するのか、ということは当然考えなくてはいけない。いつまでに3兆円にするなどとやっていくと、どうしてもつじつま合わせになってしまうんですね。

こうした変化の時代にはトップの役割も変わりますか。

鈴木:トップはチームのキャプテンです。監督ではいけません。一緒にプレーし、ある時は勝ち、ある時は負けて反省する。一緒に働くことで、仕事が動いていることが分かる。うっかりすると、非常に功績のあった人間だから監督にしようということになるが、これは間違いです。非常にいいから、キャプテンにしようということにならないといけません。

【編集長傍白】

 日本を代表する「強い会社」のリーダーとあってやや緊張しましたが、「変わったこと(経営)をやっているわけではない」との発言から始まって、「鈴木経営」の神髄を聞くことができました。「トップは監督ではなくキャプテンであれ」「重要なポジションほど人の数は減らせ」「数字の目標は立てるな、つじつま合わせが起きる」「トレンドは追うな」「朝令暮改を恐れるな」「先行情報で仮説を立て、それが論理的であればやらせる。失敗してもかまわない」など、キラリと光る言葉が随所に。本社の受付には「変化に対応し、基本に忠実に」とのスローガンが掲げられていました。

(日経ビジネス1994年3月7日号に掲載した記事を再編集しました。社名、役職名は当時のものです。)

 日本を代表する巨大流通コングロマリット、セブン&アイ・ホールディングス。長く同社を率いてきたカリスマ経営者の鈴木敏文氏が、2016年5月に、経営の表舞台から退いた。日本にコンビニエンスストアという新しいインフラを生み出した鈴木敏文氏。一人のサラリーマンは、どのようにカリスマ経営者となり、巨大企業を率いるようになったのか。そしてどんな壁に直面し、自ら築き上げた「帝国」を去ることになったのか。

 本書では2つのアプローチで鈴木氏の半生と退任の真相に迫った。1つは、鈴木氏本人の肉声である。日経ビジネスは鈴木氏の退任以降、延べ10時間に渡って本人への単独インタビューを重ね、鈴木氏自身に真相を語ってもらった。もう1つは、セブン&アイの「2人のトップ」を知ることである。鈴木氏本人と、イトーヨーカ堂創業者でありセブン&アイのオーナーでもある伊藤雅俊氏。鈴木氏は創業者である伊藤氏の信頼を勝ち取って幹部として台頭した。日経ビジネスは1970年代以降、およそ半世紀に渡って伊藤氏と鈴木氏の取材を重ねてきた。歴史を振り返りながら、「2人のトップ」の絶妙かつ微妙な関係がどのように誕生し、維持されてきたのかを解き明かした。

 戦後の日本を変えたカリスマ経営者、鈴木敏文氏。53年間のすべてを一冊に収めた。ぜひご一読ください。