社長をしていて、あほらしいと思う時が

話は変わりますが、 御社の場合、社員の約半分は女子社員ですね。今後、若年労働力が減る傾向の中では、どうしても女子労働力に目を向けねばならない。となると、女子社員の働く意識が問題にもなります。ただ、結婚までの腰かけとしてヨーカ堂に勤めているのか、それとも明確な目的意識が強くあるのか、そのあたりはいかがですか。

伊藤:私は人間の問題はもっと生々しく捉える必要があると思うのです。自分自身で考えてみましても、結婚したいって時には仕事を忘れてしまうようになるんじゃないか、人間はどちらか一方というそんな平面的なものではなく、いろいろ矛盾した要素が並存すると思うんですよ。

 会社の幹部だって四六時中、会社のことを考えているなんてことはないと思いますよ。 女子社員だって、ある時は結婚のことを考えているかもしれないけれど、仕事に恵まれたり、一定の情緒に置かれたりすれば、モラルが上がって、男子社員以上の能力を発揮することだってありますよ。

 当然、いつもこちらが願うような働きぶりを示してくれるわけではないんですが、自分の身に置き換えて考えれば仕方ないという気がしますよね。社長をしていても、ばかばかしくなっちゃってですね、こんなことをやっているのは、あほらしいと思う時ありますよ。何のために人生あるのか、なんて考えたりして。人間は複雑な要素を持っていますよ。

社長をやっていらしても、虚しいと思う時があるんですかねえ。

伊藤:そりゃありますよ。人間ですもの。多く働いたからといって給料が増えるわけじゃないし、どこの社長さんだって口で言わないだけで、思うことは一緒だと思いますよ。ただ、人さまに喜んでもらえる時に生きがいを感じる。そのために慟いているようなものでしょうね。

 これは、ある意味で価値観でしょうが、価値観というものはその立場によって変わる。だから私なんか、どうしても社長としての価値観になるわけで、それをすべての人に共通だなんて考えることはできません。

 相対的な価値観でものを見なくてはいけないとは思うんですが、やっぱり人間は自分の立場に影響されますよ。いくら偉そうなことを言っても、私ども自体、結局売る側の価値観になってしまい、買う側の価値観が分からない。

 ただ、分からないというところからスタートして商売するのと、分からないということも分からないでスタートするのでは、差が大きいでしょうね。

(日経ビジネス1976年3月15日号に掲載した記事を再編集しました。社名、役職名は当時のものです。)

 日本を代表する巨大流通コングロマリット、セブン&アイ・ホールディングス。長く同社を率いてきたカリスマ経営者の鈴木敏文氏が、2016年5月に、経営の表舞台から退いた。日本にコンビニエンスストアという新しいインフラを生み出した鈴木敏文氏。一人のサラリーマンは、どのようにカリスマ経営者となり、巨大企業を率いるようになったのか。そしてどんな壁に直面し、自ら築き上げた「帝国」を去ることになったのか。

 本書では2つのアプローチで鈴木氏の半生と退任の真相に迫った。1つは、鈴木氏本人の肉声である。日経ビジネスは鈴木氏の退任以降、延べ10時間に渡って本人への単独インタビューを重ね、鈴木氏自身に真相を語ってもらった。もう1つは、セブン&アイの「2人のトップ」を知ることである。鈴木氏本人と、イトーヨーカ堂創業者でありセブン&アイのオーナーでもある伊藤雅俊氏。鈴木氏は創業者である伊藤氏の信頼を勝ち取って幹部として台頭した。日経ビジネスは1970年代以降、およそ半世紀に渡って伊藤氏と鈴木氏の取材を重ねてきた。歴史を振り返りながら、「2人のトップ」の絶妙かつ微妙な関係がどのように誕生し、維持されてきたのかを解き明かした。

 戦後の日本を変えたカリスマ経営者、鈴木敏文氏。53年間のすべてを一冊に収めた。ぜひご一読ください。

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