利益は自己資本の関数

これまで急成長されてきた割には、財務体質がいいという実績を上げられていますが、この面ではどういう政策をとられてきたんですか。

伊藤:ひと口にいうと、無理な投資はしないということですね。投資効率を重視し、それに合わないものはやらない主義でやってきました。私は、経営というのは、人さまからお金を預かっているんですから、利益を出さないといけないと考えるんです。投資された方がリターンがないというのは、銀行に預金して利息が付かないのと同じですからね。

今、金利負担の軽減、人件費の削減を目指す減量経営が関心を集めていますが、社長はこの点をどう考えていますか。

伊藤:これは結局、その場になって慌てても間に合わないんで、普段からの努力がなければダメじゃないかという気がするんです。その点、うちはまだまだ減量できてない部分も多いのですが、よそさんに比べれば社員1人当たりの効率はいい方だと思います。

 その理由の一つは資本の問題ですね。自己資本比率が30%ぐらいになりますが、これは百貨店さんと比較しても高い方に入るんです。まあこれも、いい時期に上場できたおかげですよ。

 利益というのは自己資本の関数ですね。 商売がうまいんじゃない。相当程度、資本の力によるものなんですよ。社員にも、もし上場していなくて自己資本がなければどうなったと思う、と話をしています。

 今は、近視眼的に資本はいけないものなんだという考えがあるわけですが、そうじゃなくて資本は大事なものなんだ、留保し、ストックすべきものだという考えが必要だと思いますね。

 ストックがない分を借入金でまかなうとすれば、それだけの金利を払わねばいけないわけですから。やっぱり普段から蓄積をすることが減量につながるんでしょうね。その点、海外の人の考え方はさすがに資本主義のメートル尺であって、日本のそれは金尺だという気がしますね。

 スイスがあれだけの国になったのも、雨の日が多いから蓄積をする。歯医者より銀行の数が多いって言いますからね。それが豊かさの裏付けになっているんじゃないでしょうか。企業も同じだと思いますよ。いい時にパッパッと配当をしてしまったりね。私どもも3割配当をしていますが、時価発行での3割ですから、実質1分にもならない。申し訳ないようなものですよ。

開店の気持ちを忘れたら失敗する

イトーヨーカ堂の場合、株価が高いわけですが(1976年3月10日時点で1730円)、これは社員にとって責任の大きさを感じさせる引き締め要因になるのか、それとも逆に気が緩むのか、どちらの方が強いんでしょうか。

伊藤:さあ、両方じゃないですか。ただ特に心しなければいけないのは、株価が自分たちに対する正しい評価だと慢心することですね。商売というものはいつも謙虚さを持ってないと危ない。気が緩んだらダメになりますよ。

 その意味で、商売とは自分との闘いだと思うんですよ。私、生鮮食品を手掛ける時に、友人にどうしたら成功するかと聞いたんです。そしたら彼は、頑固さだと言うんですね。確かに商売の手を広げる段階で失敗する人の例を見てみると、ある意味での頑固さを失っている。もちろん、かたくなではいかんわけです。マーケットから取り残されてしまいますからね。ただ老舗と言われるような店には、参考にすべき頑固さがあるような気がしますね。

その頑固さとは、ちょっとやそっとのことでは揺れ動かない哲学みたいなものなんでしょうね。

伊藤:良く言えばそういうことでしょうが、平たく言えば感謝とか謙虚さとかいうことになるんじゃないですか。こうしたものがなくなると商売はダメになりますよ。

 亡くなった兄貴によく言われたんですが、商人というものは開店した時には必ず安く売る。どうにか格好がつくと必ず高く売る。おまけに安く売っていた時にはお客さんに来ていただくという気持ちだったのが、だんだん売れてくると客が来ないと不満を言う。

 これが人間の本当の弱さだと言うんです。ですから開店の気持ちさえ忘れなければ商売は決して失敗しないもんだ、というわけです。

お客さんに感謝する、その初心を忘れるなということですね。

伊藤:口で言うのは簡単なことなんでしょうが、なかなか難しいですよね。うまく行けば、そこに必ずおごりが出てくる。お客さまが来るのは当たり前、月給をもらえるのは当たり前と思ってしまう時に、会社の滅亡が始まるんでしょう。

 ですから会社というものは、決して外部要因で力が弱るんじゃない。壊れる時は内から崩れるんだと思っています。一生懸命やっていれば競争に負けることはないですよ。

 そうした点から考えると、消費者とお客さまという言葉には相当大きな違いがあるように思えますね。消費する者では店に来ていただくという感謝の念がありませんものね。

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