従業員一人ひとりの姿勢が会社の財産

しかし、従業員が1万人を超える大世帯になると、トップの考え方を徹底させるということは、だんだん難しくなってくると思いますが。

伊藤:私、会社の財産てのは何だろうかとよく考えるんです。うちは自己資本が360億円あります。これは一見、大企業のように見えますが、1万人の従業員で割ると、1人当たり360万円でしかない。

 社員の1人が商品をちょっと粗雑に扱うかどうかすると、このくらいの金額は簡単に吹っ飛んでしまうんですね。ですから、会社の財産は従業員一人ひとりがいろいろな問題に直面した時、どんな姿勢で対処するかということになってしまうんです。それも、頭で考えてからというのではなく、体で反応できるようにしなければいけない。

 ですから、これはものの考え方を繰り返し繰り返し、言い続けないとダメでしょうね。さっきも入社7~8年の社員と話していたんですが、彼が入社した時のうちの売上高は80億円くらいだったんです。ところが、今、彼の責任になっている一商品部門が200億円なんですね。

それで、私は言ったんですが、君の部門は私が君の入社した頃、抱えていた以上の問題点を抱えているはずだ。大きくなっただけに、取引の姿勢にはよほど気を付けなくちゃいけない。人さまが本当に応援して下さるかどうか、会社は応援するが、君には応援しないってことじゃダメだぞってね。

小売業には木質型人間の方が合う

お客なり取引先に安心感を与えて信用を得られる人間という意味では、きらきら光っている型より、しぶい木目のようなタイプの方が好きだというご持論につながってくるわけですか。

伊藤:人間、金属質と木質の両方のタイプがあると思うんです。ところが、人間の側にあるものというと、ほとんどが木質のものなんですね。小売業は本当に地味な仕事ですから、愚直なくらいの人間の方が間違いないんです。いくら口先でうまいことを言っても、お客さまが直接、口に入れたり身に着けたりする商品を扱うんですからね。いつも買う立場になれと言っているんですが、その通りになっていますかどうか。偉そうなことは言えませんから、まあ、そういうように努力していますとお答えするしかありません。

 コンビニエンスストアのセブンイレブン(1974年5月にスタート、現在72店)をやります時も、フランチャイジーの方々は、これまでの商売をおやめになって新しく始められるわけだから、よほどその方々の生活のことを考えてあげなきゃいけないよとやかましく言いましたけれど、そういう考え方だけはよく言っています。

若い人が多いうえに、社員の半分以上が女子ということだと、実際には、いい姿勢にもっていくのは大変でしょうね。

伊藤:しつけという字は身が美しいと書きますね。しつけ糸は衣紋掛から誰が着ても着物になるようにということでつけるんですが、まあ、折り目がぴしっとしていないと、できが悪くなりますね。

 若い人だと、どうしてもそこいらが、なあなあになってしまいますが、諦めないで繰り返し言う以外にありませんよ。賽の河原みたいなものですから。これを諦めた時は、トップは辞めた方がいいと思っています(笑)。

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