息子に継がせたいのが親の人情

 豊かになると、人間というのは愚かになる。まだうちの会社は、みんな、僕も、一生懸命、ぜいたくしないでやっているし、まあまあいい。でも、大丈夫だと言っている時に壊れてしまう。

 (子息の伊藤裕久専務の後継問題について)この前、新聞記者に言ったのね。「そうありたいと思うのが親の人情ではないですか。だけど、それがそうなるかならないかは祈るばかりですね」と。そうしたら「祈ってでもならせたいんですね」と相手は言う。そういう短絡的な解釈をされるから、息子の話はしないようにしています。

 オーナーシップの良さ、悪さというのはあるんじゃないですか。うちの会社は割合とオーナーの悪さが出なかった。兄貴のおかげですよ。

 (オーナーシップは)自分のものだという感覚ではないかと思う。それが良さでもあるし、悪さでもある。オーナーシップのない人は、自分のものでないという悪さと良さがある。だから、それはどっちがいいとか何とかということではないと思うんです。

 だけどね、やっぱりオーナーシップがないと、会社が壊れる問題点が大きいね。哲学が壊れるときが怖いね、だんだん薄くなるけどね。(談)

編集長傍白

 イトーヨーカ堂グループの総帥である伊藤雅俊名誉会長が、久しぶりに日経ビジネスに登場し、縦横に流通業界の危機を語ってくれました。ダイエー型の含み経営と、ヨーカ堂型のキャッシュフロー経営の対比は、長年にわたってマスコミの格好の話題でした。しかし寡黙な伊藤流の経営哲学は、結果で見てもらうという傾向が強かったように思えます。鈴木氏に第一線の経営を委ねた美意識もあったでしょう。冷戦崩壊後の日本システムの危機に対する伊藤氏の分析と、流通業の将来に対する問題提起はさすがです。なくしたものに対する自己認識が、ヨーカ堂の強さの原点かもしれません。

(日経ビジネス1996年9月30日号掲載。社名、役職名は当時のものです。)

鈴木敏文 孤高』 好評発売中!

 日本を代表する巨大流通コングロマリット、セブン&アイ・ホールディングス。長く同社を率いてきたカリスマ経営者の鈴木敏文氏が、2016年5月に、経営の表舞台から退いた。日本にコンビニエンスストアという新しいインフラを生み出した鈴木敏文氏。一人のサラリーマンは、どのようにカリスマ経営者となり、巨大企業を率いるようになったのか。そしてどんな壁に直面し、自ら築き上げた「帝国」を去ることになったのか。

 本書では2つのアプローチで鈴木氏の半生と退任の真相に迫った。1つは、鈴木氏本人の肉声である。日経ビジネスは鈴木氏の退任以降、延べ10時間に渡って本人への単独インタビューを重ね、鈴木氏自身に真相を語ってもらった。もう1つは、セブン&アイの「2人のトップ」を知ることである。鈴木氏本人と、イトーヨーカ堂創業者でありセブン&アイのオーナーでもある伊藤雅俊氏。鈴木氏は創業者である伊藤氏の信頼を勝ち取って幹部として台頭した。日経ビジネスは1970年代以降、およそ半世紀に渡って伊藤氏と鈴木氏の取材を重ねてきた。歴史を振り返りながら、「2人のトップ」の絶妙かつ微妙な関係がどのように誕生し、維持されてきたのかを解き明かした。

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