「CEO辞任では不十分!」「男として責任全う」
ここで、明らかに怒っている様子の株主が登場した。「修会長のCEO辞退だけでは不十分。会長を辞任すべきだと思うがどうでしょうか!!」
鈴木会長は動揺することなく、いつものペースで答える。「責任のとり方はいろいろあります。国会でもそう。企業経営では、辞めるということは非常に無責任だと考えています。37年やってきて、最悪の事態を迎えている。逆にチャンスである。再発防止のために徹底的に責任を全うする。男として大切なことだと思う。見解の相違であると思うからご理解を頂ければ」
「男として」という表現を使った鈴木会長。会場から大きな拍手が巻き起こる。依然として修会長の人気は絶大だ。
そして最後の質問。株主はこう激励した。
「不正はあったが、素晴らしい走行性能のクルマを出している。経営面でも過去最高の利益と配当。良い実績を上げている。今回の問題で、萎縮することなく、元気に業務を進めていただきたい。役員、社員の方々、引き続き業務に邁進してほしい」
鈴木会長は待ち構えていたかのように、回答者として鈴木俊宏社長を指名。昨年の株主総会後に就任した鈴木会長の長男だ。
「激励ありがとうございます。感謝申し上げたい。不正に対しては猛省した上で意欲的に邁進し、一日も早く信頼を回復したい。スズキの一人一人の力は優れている。ベクトルを合わせ、風通しを確保して、スズキらしい商品づくりをしていきたい。引き続き応援をよろしくお願いしたい」
前を向き、胸を張って俊宏社長がこう答えると、またも会場から大きな拍手が起こる。すかさず鈴木会長が「審議を終了して、採決に移りたい。よろしいですか」と切り出すと、再び大きな拍手。
すべての議案がスムーズに可決され、あっという間に総会は終了。最後に選任された取締役が改めて紹介されると、またしても大きな拍手が会場から起こった。
鈴木会長「本日はお忙しいところお越し頂きありがとうございました。これにて散会とさせて頂きます。ありがとうございました」
今回の所要時間は1時間37分で、前年よりも20分短かった。出席株主数は642人と昨年より75人増えたが、質問者数は5人と3人減。燃費不正問題を抱え波乱も予想されたが、鈴木会長がトレードマークの眉毛を「ピクリ」とさせる場面もなく、意外なほどにあっさりと幕を閉じた。

「1問だけ修さんに厳しい質問があったけど、修さんが反論した時に会場から拍手が起こったでしょ? あれがスズキ株主の“民意”ですよ」
「ちょっと物足りなかった。なんであんなに修さんは終了を急いだのでしょうか。個人的には再発防止策とか、不正した背景なんかを修さんの口から聞きたかった」
「最後に俊宏さんに答弁を振ったところは、さすがですよねぇ」
会場を後にする株主が漏らした感想は、「修さん」に関するものばかり。総会後、スズキは俊宏社長がCEOを兼務すると発表し、経営の世代交代は形の上では一歩前進した。ただ、カリスマ経営者が次の世代にバトンを渡すことがいかに難しいかを、この日の総会の「空気」が物語っている。
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