朝から雨の降る東京。国立代々木競技場には、東京電力の第92回定時株主総会に参加する株主らが続々と集まってきた。代々木競技場の第一体育館の入り口まで来ると、株主らなのだろうか、かけ声が聞こえてくる。
「東電の取締役は責任を取れ!5.5兆円を賠償金に」と垂れ幕を掲げるのは、東電株主代表訴訟の関係者たちだ。
それと対峙するように右手側からは別のかけ声が聞こえる。「お前らは電車にも乗るな!暑い夏でもクーラーを使うな!」。手には「日本製原発は安全です」「原発即時再稼働せよ」と書かれたプラカードが握られている。
ほかにも「原発の安全利用で電気代を値下げしろ」と書かれた垂れ幕まである。今年は雨のためだろうか。昨年よりも場外で反原発を訴える人は少ないようだ。ただ原発推進派と反対派が対峙して主張を叫ぶ様は、その後の総会を暗示していた。
株主提案、会社はいずれも反対
10時1分前、続々と取締役が会場に姿を現し、着席した。10時ぴったりにブザーがなり、取締役たちは起立、拍手が起きる。議長を務める數土文夫会長が挨拶を始めた。手元を見ながら、時折視線を上げて、会場に目を向ける。会場はまだ静かだ。
最初の事業報告は映像とナレーションによるもの。廣瀬直己社長や事業会社社長の説明が一通り終わり、監査委員会からの報告が続く。なお会場は静かな様子で、昨年のように、株主の叫び声が聞こえたりすることはなく、順調に議案の上程に移る。
3人の株主からの提案である2号議案の内容について、株主の説明が始まる。原発の早期再稼働を求めるものだ。
「日本に対して悪意を持つ諸外国はたくさんある。原油、ガス、石炭など化石燃料は外国為替変動リスクを抱えており、日本だけでは解決できない。輸入燃料を分散するうえでも原発は切り札になる。再生可能エネルギーの発電施設が自然環境に優しいとは言えない。日本経済が停滞しているのは電気代の高騰のため。民主党の悪法が足を引っ張っている。原発の再稼働が必要だ。反対派は安全性を問題視するが、東電の企業風土は変わった。日立など原発メーカーを叩くのは反日の勢力だ」
早口で株主が言い切ると、会場からは拍手が少しだけ聞かれた。
続いて3号から11号議案についての株主説明が始まった。これは303人の株主が提案したもの。3号議案は先ほどの議案とは正反対に、原発からの完全撤退をすべきという内容。「原発を引き起こした責任は株主にもある」と指摘し、「原発事故は1000万人の生活を破壊し、命を奪ってきた」などと続ける。「即刻原発を廃止する。二度と原発事故を起こしてはならない。次の事故が起きれば株主も責任が問われる」と語った。
4号議案は「原発170キロメートル圏内全てで、実効性のある避難計画が策定さたと判断されるまで再稼働をしない」というもの。議案を上程した男性株主は、冷静に淡々と説明を重ねていく。議長の數土会長は下を向き、議案について説明する株主らの顔はあまり見ない。廣瀬社長は両手を組み、視線は机の上に。両名とも、時折会場を見渡す。
5号議案について女性株主が説明する。提案内容は柏崎刈羽原発の分社化である。新潟から来たそうで、新潟県民は柏崎刈羽原発に対する不安を感じているようだ。原発敷地内に原発管理会社の本社を設置せよと主張している。
続いて6号議案の上程。こちらも女性の株主だ。提案したのは、放射能汚染水の海洋放出の禁止について。トリチウム(三重水素)を含む放射能汚染水の海洋放出を行わないように、ということだ。
今のところ、議案を上程する株主らも、会場の株主らも、冷静な様子。議案が上程されるたびに、ぱらぱらと会場からは拍手の音がもれる。
7号議案の説明も女性株主が行う。内容は石炭火力発電所建設の中止について。5基の石炭火力発電所の建設計画があるが(相馬、福島、常陸那珂、横須賀)、これらの計画から全て撤退すべきという。代わりに今後の電源は再生可能エネルギーへとシフトすべきだという。
8号議案の補足説明も女性株主。役員や社員による原発の廃炉作業への従事を提案している。作業員の労働環境の悪さを指摘。作業員らが現場から離れた後の健康管理のあり方などに苦言を呈する。9号議案の補足説明も女性株主が行う。六ケ所再処理工場などを展開する日本原燃(プルトニウムを再利用する核燃料サイクルを進めるために作られた会社)と、日本原子力発電という2社への出資、債務保証をやめるべき、という提案だ。
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