株主総会は東京都千代田区の「ベルサール半蔵門」で開かれた。入口には直立不動のセコム社員が並び、会場内に入っていく株主に丁寧に頭を下げていた。報道陣も別室でモニターでの見学を許されたが、会場内の撮影や録音は禁止。セキュリティ業界の最大手であるセコムらしい「鉄壁」ぶりだ。
セコムは今年5月11日の取締役会で、前田修司会長(当時)の解職動議が出され、11人中6人の賛成により可決。前田氏とともに業容拡大を推進してきた伊藤博社長(同)も解職となった。両氏は取締役も辞任し、名誉職の特別顧問に就いた。
解職の理由について、新たに社長に就任した中山泰男社長は5月の発表時に「前田氏は強力なリーダーシップを発揮してきたが、副作用として自由闊達に議論する気風が失われた。中長期的な成長が見込めないと判断した」と説明。だが、2016年3月期は純利益が4期連続で最高となるなど業績は順風満帆。人事案を議論した指名・報酬委員会や取締役会での経緯の不透明さも指摘された。
さらに、セコムを創業した飯田亮・最高顧問の存在もある。飯田氏は1962年に前身の日本警備保障を設立し、日本のサービス業を代表する企業の1つに育て上げた。1997年に最高顧問となったが今なお取締役として大きな影響力を持つ。今回の前田・伊藤両氏の解職では飯田氏も賛同したとされ、株主総会での発言が注目されていた。
冒頭で「体調不良で欠席」の告知
株主総会が始まったのは午前10時。議長を務める中山社長は冒頭、集まった株主にお礼を述べるとともに、「開会に先立ちお断りがございます」と切り出した。「本日は取締役の飯田亮が体調を崩したことにより、大事を取りまして欠席しております」。集まった株主の細かい様子は分からなかったが、真の「主役」の不在に肩透かしを食った人も多かったのではないだろうか。
そのまま、議事は淡々と進行していく。事業報告や連結計算書類の説明が映像で流され、事業報告ではセコムの多様なビジネス展開が詳細に語られた。ドローン(小型無人機)を活用して不審な車両や人物を追跡する監視サービスや、ネットバンキングなどの不正送金の防止サービス、高齢者が自宅で暮らす際のサポートサービス――。
同社はセキュリティで培ったネットワークをベースに、ICT(情報通信技術)を積極的に取り入れて事業領域を拡大している。2020年の東京五輪・パラリンピックに向けては成長がさらに期待される企業だ。その同社で起きた「解職劇」に株主はどのような判断を下すのだろうか。
報告事項が一通り終わると、10時半過ぎから議決事項の説明と株主質問に入った。今回の株主総会で会社側から提案された事項は2つ。第1号議案「剰余金の処分の件」、第2号議案「取締役10名選任の件」だ。飯田氏、中山社長ら5人の再任のほか、飯田氏の娘の夫である尾関一郎執行役員ら社内外の5人が取締役の新候補となった。
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