相川哲郎社長が辞任するなど、経営陣を刷新して燃費不正問題からの再生を狙う三菱自動車。年内には日産自動車が34%を出資する予定で、今年の株主総会は再出発に向けた大きなターニングポイントになる。しかしながら、従来とは会場を変更したことも影響してか、出席者は昨年に比べ激減。不正問題の根本的な原因や経営責任を追及する株主の声が、ガラガラの会場に虚しく響いた。
「なぜ益子(会長)がやめないんだ。今日は一番前に座ってガンガン追及しますよ。彼の代わりはいくらでもいる。相川(社長)、中尾(副社長)は就任したばかり。益子会長が辞めるべきだ」
「バックに三菱グループがついているので潰れることはないと考えて株を購入したが、今回、日産自動車が株式を低価格で購入することを腹立たしく思っている。今回の不正で1000円前後だった株価は500円くらいまで下がっている。損した分を返して欲しいもんだ」
「燃費を気にする三菱自動車ファンはそれほどいない。なぜ他社と一緒になって燃費競争に参加してしまったのか。燃費ではなく乗り味などの魅力で戦えば十分に勝ち目はあったはず」
6月24日金曜日の朝。千葉市の幕張メッセの入り口で、三菱自動車の株主は経営陣への厳しい意見を記者に吐露し、会場に乗り込んでいった。
総会は朝10時にスタート。冒頭で議長の益子会長は、会場についてこう説明した。「品川プリンスホテルでの開催を予定していましたが、不正問題を受け、収容人数を考えて会場を変更しました」。
これまで三菱自動車の株主総会は、本社(東京都港区)周辺で開催されてきた。しかし4月に燃費データの不正が発覚し軽自動車4車種の生産・販売がストップしたこともあり、会場を変更したというのだ。5月には日産自動車による約34%の出資が決定したこともあり、例年に増して株主の関心は高いと思われた。しかし来場者数は550人で、2015年の4分の1以下となった。来場者数が1000人を切ったのは、2005年以降では初めてだ。
辞任する中尾副社長も答弁
空席が目立ちガラガラの会場ではあったが、株主からは経営陣への厳しい意見が相次いだ。
「前回のリコール隠しは内部告発がきっかけだったと言われているが、今回はない。結局は日産が指摘した。明らかに対応が遅いし、社員も諦めているのではないか」
「
社外取締役は1人を除き、全部身内だ。これがほんとの社外取締役の趣旨に沿っているのか」
不正問題については、開発部門の責任者として辞任する中尾龍吾副社長が回答していく。これが三菱自動車における最後の仕事となるのだろう。
益子会長も「自浄作用を取り戻し、閉塞感に風穴をあける。人員の適正配置、ローテーションなどで不正を起こさない体制を構築できると思っているのでしっかりやりたい」と発言。「日産から山下さん(注:副社長に就任予定の山下光彦氏)を迎える。山下さんの考えも聞いて、日産がどうやっているか聞きながら最も良い方法を考える」と、日産との資本提携を風土改革につなげる覚悟を示した。
「会見での笑顔」を追及する株主
そして、総会前に「ガンガン追及する」と記者に語った株主が質問に立った。その手には、日経ビジネスオンラインの記事「三菱自・益子会長の笑顔は許されるのか」があった。
「軽自動車を発表した時の社長は益子さん。現在も会長であり最高経営責任者。あなたです。なぜ辞任しないのか! 開発本部の問題であっても、最高経営責任者が自ら責任を取るべきではないか」
その声は怒りに満ち、どんどん大きく厳しくなる。益子会長はうつむきながらメモをとる。
株主は続ける。「日産との会見の時の笑顔は何なのか。会社の存続の問題になっているのに笑顔なんておかしいんじゃないか!!」
厳しい追及に対し、益子会長は冷静に回答した。「調査結果をふまえて再発防止策の道筋をつけるのも経営者の責任だと思っている。デューデリジェンスや(日産との)シナジーの見極めを行って、新しい体制に引き継ぐのが今の務めだと思っているので、ご理解いただきたい。笑顔が出ていたとすれば、会社に光が見えてきたということがあったからだと思っている」
日産以外のパートナー候補も?
やや驚きだったのは、日産以外にパートナー候補が存在していたことを総会の場でほのめかしたことだ。益子会長は「これは外に出てきていないが、我々が好まない相手がパートナーとして浮上するリスクもあった」と発言し、日産との提携の正当性を強調した。
益子会長の責任を問う株主はさらに続いた。次の男性株主は「(取締役の選任議案について)一括の承認は納得いかない。益子さんだけ外してもらいたい」と要求。益子会長は「燃費不正を発生させたことは真摯に反省し、再発防止、日産との提携準備を進める。新たな道筋をつけたい」と理解を求めた。
総会は総じて野次や不規則発言などは少なく、比較的静かに進行。最後の質問者となった株主は「日産との提携は益子会長の素晴らしい決断だ。庶民派の益子さんですから違う感覚で次の総会までやってもらいたい」とエールを送った。
質疑応答が終了し、第1号議案(剰余金の処分)に第2号議案(取締役10名選任)、第3号議案(監査役1名選任)のすべての議案は賛成多数で承認可決。最後に副社長に就任する山下氏など新任役員4名が大きなスクリーンに映し出された。
壇上の経営陣一同が深く礼をし、12時33分、株主総会は終了。終始ガラガラだった会場を後にするある株主は「みんな呆れて来なかったんじゃないの?」と漏らした。この2カ月間、不正によって世間を賑わせ続けた会社の総会とは思えないほど、来場者の数も議論の中身も、盛り上がることなく幕を閉じた。
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