「学徒動員で東芝に行かされた」

男性株主:「中学1年の2学期から学徒動員で東芝に行かされた。以降、ずっと東芝一筋でやってきた。今回の新体制では、内部から数名しか取締役になっていない。それはなぜなのか。現場の声がなかなか反映されないんじゃないか」

 「周りの取り巻きの人間の利害だけが反映されて、いい提案をする意見が全て殺され、不正会計問題が起こったんじゃないのか。東芝の悲劇を何回も繰り返さないでもらいたい。現場の声をよく聞いてやってもらいたい」

 学徒動員以降、70年以上東芝を見てきた個人株主による意見は極めて重い。

室町社長:「新体制では社外取締役6人と社内取締役4人になります。社内の取締役4人は、新体制で会長になる志賀も含めて、全て執行権限を持っている。従って、この4人のラインで、現場のさまざまな声を吸い上げて行く」

 「それとは別に、今回の会計処理問題に端を発して、経営幹部から不正を改めないといけないと十分に考え、休みの日に幹部や経営者の意識改革研修を実施している。役員も含めて170人が4回にわたって実施している。また今般の事案に端を発して、従業員の意識調査をしている」

 突如、雄弁になった室町社長。昨年の9月30日以降、彼が実施してきた経営陣や従業員への意識改革について、詳細な説明を重ねていく。室町社長は前を向き、時に言葉がつまることもあるが、会場を見回しながら、話しかけていく。極めて実直な印象だ。

 10人目の質問が続く。

粉飾の原因はどこにあったのか

男性株主:「社長に答えてもらいたい。私は数十年来の古参株主であり、東芝が良い会社だとずっと思ってきた。新聞で粉飾決算の問題が報道されたけれど、東芝のことだからすぐに片付くと思っていた。だが、あれよあれよという間に会社全体の問題になった」

 「歴代3人の社長が悪いとか大きな問題になっていった。今も再建の途上だが、メディカルの会社を売却するとか大変なことになって、まるで潰れた会社のような気持ちになってきた。今は、不正会計問題は氷山の一角で、根本的な問題があるのではないかと感じている。私は東芝を愛しているから、過去の輝きを取り戻してもらいたい。今回の問題の本当の原因はどこにあったのか」

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東芝 粉飾の原点』(小笠原 啓 著、日経BP社、1600円+税)

 日経ビジネスでは7月、東芝の不正会計問題の原点は何かという、まさにこの株主の問いに答える書籍『東芝 粉飾の原点』を発売する。室町社長はどのように答えるのだろうか。

室町社長:「今回の会計処理問題についてはさまざまな報告をさせていただいているが、メーンバンク、準メーンバンクなども含めてさまざまな意見を頂戴した。その中で、今回の事案を契機として、全ての課題を2015年度に短期間ではあるが、全て処理すべきだと考えた。ゼロから出発するという中で、構造改革を断行するに当たって大きな資金が必要になる。それを捻出するために苦渋の決断だったが、東芝メディカルシステムズ社の株を売却した」

 「さらに長年に渡って東芝のブランド強化に大変な貢献をしてきた白物家電事業の売却を決めた。この売却によって、東芝としては債務超過という最悪の状況、こうなると株主様により多くのご迷惑をおかけする事態になるところだったが、何とかその事態は回避できた」

 「それぞれ考えられる最大の対策を2015年度に打ったと考えており、今年度はきちっとした正常な姿となりたい」

 東芝メディカルの売却前、東芝の自己資本は2016年3月末に1500億円まで落ち込むと予想されていた。売却により、ここに税引き後で約3800億円の売却益を加算できる見込みになった。ウエスチングハウスののれんを2476億円減損しても債務超過に陥らないような「余裕」が生まれたわけだ。実際、5月23日に公表した決算で明らかになった3月末の自己資本は3289億円だった。

パワハラやセクハラ問題

 11人目の株主が質問を始める。今回の株主総会では初めての女性株主である。女性の声にほっとしたのもつかの間、話されるエピソードは極めてどぎつい内容だった。

女性株主:「東芝の不正会計問題では上司に逆らえない企業風土が原因という報告があり、企業風土を改革することが対策になるという提言があった。だが実際、現場の状況はそれを改めるどころかさらにエスカレートしており、パワハラやセクハラをやり放題だし、立場を利用して見せしめのような解雇やリストラが平然と行われている」

 「現在の私の職場でも、『何も考えるな、とにかく命令にただ従え』という状況が続いている。それまで多くの改革をしてきた従業員が、生意気だとか可愛くないといった上司の感情で、上の命令に従うだけの…」(滔々と苦情を述べる女性の話を室町社長が遮る。「具体的に、簡潔に、話すように」と注意)

女性株主:「具体的には、在庫管理システムは10年以上前から問題になっていた。現場の上司が(改修の)必要はないという。現場は必要だとしているが認めてもらえない。古くから変わっていない。今後どうするかということだが人事制度が問題だと思う」(再び簡潔に、という議長の指示)「どういう風に捉えているのか、教えてもらいたい」

室町社長:「パワハラやセクハラについて、内部通報制度は今回の会計処理問題から通報者に対する保護も含めて相当充実させている。いくつかのルートもある。そういうことを担当者が説明する」

人事総務担当の牛尾取締役:「昨年11月に東芝グループの人材教育を担当する関連会社であった、本人の職務意欲を削ぐ女性差別やパワハラのことではないかと思う。本人が会社の業務指示に従わず解雇した経緯があるということのようだ。解雇撤回について団体交渉が申し込まれ、現在も団体交渉を継続している。これ以上のコメントを差し控える」

 東芝の社内で横行するパワハラ問題については、日経ビジネスでも既に昨年、報じている(詳細は「東芝現役社員が録音していた『無間地獄』」)

 12人目の株主が続く。

「劣後債はどうか」「適切なタイミングで」

男性株主:「今回の議長(室町社長)さんは、今までの議長さんよりも非常に聞く耳があると感じている。私は100社以上の株を持っているが、三菱東京フィナンシャルグループ、住友化学、富士重工などは、株主総会で嫌な意見を言う株主がいても聞く耳を持っている。ダメな会社の場合、嫌な意見だとすぐに妨げる」

 「ところで、劣後債を考えてはどうだろうか」

 「これから社長になる人は聞く耳がないと企業は衰退する。いい会社の経営トップは聞く耳がある。東芝は技術は世界一でイノベーションもある。ただ失礼だけれども、経営陣の経営能力が劣化しているのではないかと思う。先ほどの女性の意見も、もう少し謙虚に聞いたら、立派な会社になるのではないか」(指摘しているそばから議長に「簡潔に」と促されていた)

CFOの平田政善上席常務:「資金面での提案はいずれも非常にありがたい提案だと思う。改革を進めているが、資金調達の多様性が取れない状況で今回、構造改革をやったので、株式資本も少なくなっている。適切なタイミングで提案があったようなものを対処していきたい」

 13人目の株主以降、原発関連の質問が続く。

「ミサイルを打ち込まれたら?」「飛行機が落ちても大丈夫」

男性株主:「これから世界で400基くらい原発を作るそうだが、アジアには反日国がある。中国だと平気で壊れた新幹線を走らせる。そういう国に原発を売って大丈夫なのか。今現在、韓国と北朝鮮は休戦中ではなく戦争中で休戦協定は結んでいない。戦争中の国に原発を売って大丈夫なのか。将来的にミサイルを撃ち込まれたりしないのか」

室町社長:「反日の影響が原発建設に影響するのかはコメントしにくい。原発の安全性については、私どもの『AP1000』という原子炉が、どういう安全性があるのか志賀から回答する」

志賀副社長:「色々な国に原子力発電所の輸出をしているが、その場合は基本的な要件を満たす必要がある。原子力を平和利用する。原子力に対して日本などと原子力協定を結んでいることや、原子力の安全に対して規制基準などがあることなど、輸出については日本政府の許可が必要。技術については、『AP1000』という原子炉はさまざまな国で審査を受けている。最新のAP1000は電源喪失が起こった場合に備え、高度な安全性を持っている」

 志賀副社長はさらにAP1000の技術的な優位性について説明を重ねていく。志賀副社長は2010年から2013年末まで、米ウエスチングハウスの会長を務めていた。そして最終的に「飛行機の落下にも耐用性を持つことが必要になるが、飛行機が落下した場合も原子炉が安全になるという要件を満たしている」と語った。

(2016/6/22 12:00)

 株主総会が始まって2時間が経ったが、質問はまだまだ続く。東芝側は2時間経った今も、根気強く質問を受けていく。一方、同時刻に始まった日立製作所の株主総会は、11時30分に終了した。

 14人目の株主も原発について触れる。

女性株主:「原子力発電所を輸出するということだが、一度事故が起こると収束には多大なカネと時間がかかる。安全と言われても安心できないことを、心に留めてもらいたい。その上で、東芝のエネルギー事業で、再生エネルギーの比率を高めてもらい、原子力事業の比率をもう少し下げてもらうことはできないのか」

室町社長:「エネルギーミックスの比率をどうするかは国によって異なる。なので、エネルギーの比率をどうすべきかは回答できる立場にはないが、東芝のエネルギー事業としては、再生エネルギーの比率を上げたい」

志賀副社長:「原子力発電は安全が第一。最も安全な原子力技術を輸出していく。安心についてもご指摘いただいた点を受けとめたい。再生可能エネルギーは、既に普及している太陽光や風力だけでなく、水素などの技術も含めて開発を進めている。それぞれの国のエネルギー政策があるが、日本でも政府のエネルギー政策に貢献できるよう再生エネルギーにも注力したい」

 志賀副社長は丁寧に説明を重ね、前を見ながら流暢に回答を続ける。だが、会場からは何か叫び声が聞こえる。室町社長が「静粛に」と注意を促す。今回の株主総会では初めてのことだった。「静粛に」と繰り返す室町社長。

「東京の本社に固執する必要はあるのか」

 少しざわついた中で、15人目の株主が質問を始めた。

女性株主:「業績を見ると、東芝はいつまで存続できるのかと不安に思う。日産自動車の例もあるが、固定費を大幅に下げない限り、会社としての存続が難しいのではないか。素人考えだが、東京の今の本社に固執する必要があるのか。 固定費に真剣に向き合わないといけない」

 「またウエスチングハウスの減損の件は、資金調達コストが上がったということだが、原子力の今後の受注状況は好調だという。今後の事業環境については楽観できるのか。話がちぐはぐな気がする」

財務担当の平田上席常務:「会社を見る時には固定比率と変動比率の両方を見る必要がある。当社はカンパニー制を取っており、カンパニーの中で、カンパニーごとに固定費の管理をしている。今回、限界利益が稼げない事業を思い切って構造改革したのも固定費を改善する1つの手段だった。引き続き固定費は改善していきたい」

志賀副社長
「ウエスチングハウスの減損は、当社の格付け(低下)によって資金調達コストが上がったことによるもの。だが格付けや株価が戻れば価値は元に戻ると思う」 ウエスチングハウスののれんを減損した理由について、東芝は格付けの変更により資金調達コストが上がったことが原因だとしている。一方で、減損の前後で原発の受注目標は変えなかった。

「解雇された社員が復帰できる環境を」

 16人目の株主が質問するくらいから、少しずつ会場が騒がしくなっている。株主の誰かが声を上げているようだ。そんな状況でも質疑応答は進んでいく。

男性株主:「粉飾決算に関わった役員と管理職は全てクビにするというのがあるべき姿。だが現実問題を考えると会社としては難しいのだろう。だけど、管理職がクビにした労働者や組合員を救済しないと、まじめに一生懸命働いて、意見を言った人が解雇される会社ではダメだと思う。役員、管理職が反省し、解雇された人が復帰できる環境を作った時に、初めて東芝の再出発があると思う」

室町社長:「粉飾決算に関わった役員については役員責任調査委員会を立ち上げて調べた。5人の元役員については善管注意義務違反が認められるとして責任追及を行っている。5人は会社と関わりない状況になっている。一般従業員については、今回の不適切会計問題に関わった人は解雇という形をとっておらず、訓戒など社内的な処分をしている。一般従業員で解雇された人はいない」

 会場からは引き続き叫び声が聞こえる。室町社長は無視して議事進行を進めていく。17人目の株主が続く。

男性株主:「原発400基を建設するということだが、建設するには相当の資金が必要になる。調達コストが高まっている中でどうするのか」

室町社長:「世界で400基の需要があるということで、私ども東芝グループが何基受注できるかということについては、2030年までに45基を目標にしている」

志賀副社長:「基本的には原子力発電所の資金はお客様が手配する。国の支援を必要とする時には私どもが間に入って融資できるよう手伝ったり、一部私どもが投資をしたりするケースもあるが、その場合は私どもの資金の状況を考慮した上で、慎重に取締役会で議論をして投資について判断をしている」

(2016/6/22 12:30)

 室町社長の表情にも少し疲れが見えてきた。「時間も迫ってきたので、あと2問でいかがでしょうか」と室町社長は会場に問い、会場は拍手で答える。時間は12時30分を過ぎ、もう2時間半が経っている。

 残り2人の質問になった段階で、室町社長は先ほどから声を上げていた株主を当てたようだ。18人目の株主がマイクを持つ。

「記者会見では答えたのに、株主にはなぜ回答しないのか」

男性株主:「質問させてもらう前に、株主総会は株主に対して経営者が説明する場所なのに株主の質問に答えてないでしょ! 不正会計がなぜ起きたのか。事前質問も同じです、説明の義務を果たしてください! 皆さん、株主としてバカにされているんですよ! 株主の質問にきちんと説明しないなんて!」

 「不正会計の発端であるウエスチングハウスの買収について、きちんと説明してください。ウエスチングハウスの減損について開示義務違反を東証から指摘されています。当時の取締役は認識していたのか」(詳細は「スクープ 東芝、米原発赤字も隠蔽」を参照)

 「ウエスチングハウスの減損についてメールで隠蔽しようとした事実がある。メールの宛先については、取締役の牛尾さんも入っている。認識していたのかどうなのか」「そもそも第三者委員会に調査を委託した時に、ウエスチングハウスを対象外にしたのはなぜか。これもメールに残っている」(詳細は「スクープ 東芝、室町社長にも送られた謀議メール」参照)

 日経ビジネスの一連のスクープ記事を読んでいたのだろう。一連の隠蔽問題などについてまくし立てる株主に対し、「簡潔に」と繰り返し迫る室町社長。すると株主はさらにヒートアップし、「質問に答えていないからでしょう。事前質問したのに答えていないんだから説明してください」とまくし立てる。

 「ウエスチングハウスに対する質問に対して、「日経ビジネス」に出た時に、会見で発表している。私はウエスチングハウスについて質問しているけれど無視された。記者会見では話しているのに、事前質問した株主には答えない。どういうつもりか」(詳細は「東芝室町社長、巨額減損『認識していなかった』」の記事)

 「記者会見で隠していた事実に対して、室町社長は謝罪しています。あなた自身が認めているということでしょ。それなのに、事前質問に対して、何も説明しないのはどういうことですか。きちんと説明してもらいたい」

 長々と続ける株主の声を区切る室町社長。どうやらマイクが取り上げられたらしい。叫び声が聞こえる。

室町社長:「貴重な意見、ありがとうございます」

 「ウエスチングハウスの買収から不正会計が始まっているという認識はない。開示義務違反を結果として起こしたことは真摯に反省して謝罪をした。ウエスチングハウスの単体の減損については取締役会の議題にはなっていなかった」

 「ただ結果として、こういう事態を招いたことは、真摯に反省をして、今後開示に関しては法令に基づいて遵守したい(詳細は「室町社長、減損を知らなかったのですか?」を参照)。開示強化をすることについて、広報IR部門を社長直轄にして、担当役員を配置した。その傘下に適切な情報を収集する部門を設置した。任意開示でもできるだけ開示姿勢を高めていきたい。全ての質問に回答できないが回答した」

 会場からはまだ怒号が聞こえる。「静粛に」とひと言。最後の質問を19人目の株主が始める

「会社の不用品を持ち出してあげている」

男性株主:「コンプライアンスについて、東芝機械ココム事件というのが過去にあった。そして今、再び虚偽の決算報告をしたことで、東芝は再び『特設注意市場銘柄』となり、大きく信用を損ねているのが現実だ。コンプライアンスを守っておればこういうことにはならなかった」

 「私は今、銀座で働いており、東芝に務める社員も来ている。土日も東芝社員は働いているが、どうなっているのか。それも会社の不要品を持ち出してきて、商品を働いている人にあげている。チェック機能はどうなっているのか」

室町社長:「ココム事件以降、関連法令を厳格に守ってきた。新入社員の教育をはじめ、常にココム事件の教訓を生かしている。そういう状況の中で不適切会計問題が起こったことについては何度も申し上げているが、真摯に反省してガバナンス強化と意識改革を進めている」

 「会社の不要品を持ち出す従業員がいるということだが、これについては個別の調査が必要なので、別途、問題があるかどうか調査をしたい」

 室町社長の表情に疲れが見えてきた。表情も開始当初より少し険しくなっている。質疑応答におよそ1時間半が割かれた後、「決議事項の裁決に入りたい」と室町社長が語ると、拍手。その合間に、やはり怒号が聞こえる。

 室町社長は叫んでいる株主にマイクを渡すよう促した。どうやら18番目に質問をした株主のようだ。この男性株主が修正動議を出した。

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