「京セラの稲盛さんを呼んだらどうか」

 質問に立った男性株主はどうやら東芝関連会社の経理部門に勤めていたようだ。

男性株主:「1982年に東芝関連会社に入社して経理をやっていた。90年代、ある新聞にこんな記事が載っていた。それは松下電器のグループ会社が倒産した時、社長の暴走を止められなかったとして、松下幸之助さんがグループ全体の経理部門にハンドブックを渡したという話だった。その新聞記事によると、『NO』と言える経理マンになれ、という内容だったという。だが、『NO』と言える経理マンになれといったって、なかなかなれるもんじゃない。そうするために経理部門を独立させて自由にやらせろ、という記事だった」

 「この記事を読んで私も頑張ろうと思って、90年代には中国に赴任した。だが現地の社長ともめて、『経理の言うことを守らないなら私は日本に返る』と騒動になったこともある。経理の言葉を守るようにしないと会社の不正には取り組めない」

 「ご存知だと思うが、私のいた東芝の関連会社はその後、京セラに売られた。そして京セラになった後、赤字だったこの会社は黒字になった。(京セラ創業者の)稲盛さんの力が大きいのだろう。みんな人が変わってきた」(室町社長から「簡潔に」と注意を受ける)

 「不正会計をやらないようにするため、経理を強くするための体制をとってもらえないかということと、稲盛さんみたいな人を活用したらいいのではないかという提案だ。JALだって良くなった」

室町社長:「冒頭、私どものガバナンス体制について説明したが、現在の体制では、経理の独立性の担保と、社長に対するけん制機能は大幅に強化している。従来、CFO(最高財務責任者)の任命権と解任権は社長が持っていた。だが今は指名委員会に権限を委ねている。万が一、CFOが社長の支持に従わなかったとしても、指名委員会の許可がないと社長はCFOを解任できない。それだけ独立性は非常に高いということだ」

 「同じように、カンパニーの社長とカンパニーの経理も上司・部下の関係があるが、社長の圧力を避けるために、カンパニーの経理部長もレポートラインはコーポレートのCFOにしてある。独立性を担保されたCFOにレポートするようにした。こうした今回の一連の構造改革によって、財務管理会計の独立性、けん制機能は十分に構築できたと考えている」。

 前を向き、落ち着いて話す室町社長。京セラ創業者の稲盛和夫名誉会長を東芝の経営陣にという要望についても、室町社長は次のように続けていく。

室町社長:「私どもの取締役は、全員社外取締役で構成される指名委員会で議論して選定されている。社外の有力な方の登用も絶えず視野に入れて検討している。(新たに就任する綱川)社長については社内昇格だが、社外も検討した結果である」

 株主は淡々と質問を重ね、的確に回答していく室町社長。興奮した株主からの質問はまだ出てこない。

「浜田さんの『粉飾決算』は読んだか」「読んだ」

男性株主:「皆さん、昨年9月以降新たに取締役になられたということで、あまりよくご存知ないかもしれないが、今回指名された取締役の方々は、浜田康さんの『粉飾決算 問われる監査と内部統制』は、読まれたでしょうか。二度と不正をおこさないように、読んでもらいたい」

室町社長:「浜田さんの本は有名な本なので会計問題に携わった東芝のメンバーは、私も含めて読んでいる」

 率直に応える室町社長の姿勢が印象的だ。株主が質問を続ける。

男性株主:「今回の問題はカンパニー制が原因なのではないかという指摘がある。その中でもカンパニー制を維持するのはなぜなのか。また今回の株主総会をもって社長の交代をするということだが、壇上の皆様、株主の皆様が許されるならば、(綱川)新社長の意見、展望を聞いてから議決権を行使したい」

室町社長:「今般の会計処理問題は、カンパニーに対して経営トップがさまざまな無理、いわゆる『チャレンジ』を迫った結果、カンパニーがさまざまな不適切な会計処理を行った。従って、カンパニー制が引き金になったのではないという考えであるし、カンパニーに自主自立的な経営をしてもらって成長戦略が取れるようにした方が、東芝の経営体制としてはよいと思っている。さらに資本政策上も、さまざまな案件を検討する中で、今般はカンパニーを縮小する形で4カンパニー制を提案している」

 東芝の一連の不正会計問題について、室町社長は「さまざまな無理、いわゆる、『チャレンジ』を迫った」と改めて説明した。

 さらに新社長については、「本総会の最後に挨拶を計画している」とし、決議前に、綱川新社長が登場する機会は与えられなかった。

「議長、株主を安心させてください」

 何人かが質問に立った後、7人目の株主は意味不明な発言を続けていく。発音が不明瞭でマイクからはその内容が把握しづらい。注意して聞いていると、ようやく内容が理解できた。

男性株主:「議長があれだけ一生懸命やっとるんだから、寝るな!」

 「聞きたいのは、今後あの問題について刑事訴追されることがあるのかどうかが心配なんですわ。この先はお上の判断にゆだねるのでしょうが、田中(久雄・前社長)なんてな、舛添(都知事)を思い出しますわ。人ごとではないですわ」(簡潔にと注意される)

 「刑事訴追されることはないと思いますが、議長、株主を安心させてください。オリンパスのようにはなりませんからと、株主を安心させてください」

 基本的には議長に向けた温かい応援メッセージのようなのだが、何せ聞き取りづらい。こうしたエールに対して、室町社長はクールに答える。

室町社長:「せっかくの質問ですが、私たちは刑事訴追について言及できる立場にはないので、回答を控えたい」

「若干、情報が漏洩したこともあった」

 8人目の株主が続く。声の様子からして高齢なようだ。

男性株主:「昨年末に制定されたサイバーセキュリティに対する経営ガイドラインについて聞きたい。会社としての対応、担当部署、担当者の名前を教えてもらいたい」

室町社長:「東芝は過去、いろいろなサイバー攻撃を受けており、若干情報が漏洩したりしたこともあった。最大限、サイバーセキュリティについて考えており、経営企画を担当する綱川副社長が回答する」

綱川副社長:「ウェブサイトへの攻撃は1日100万件、電子メールは1日に160万件が来ており、60%弱がウイルスの付いているメールだ。これに対して我々は様々な対策をとっている」

 新社長となる綱川氏の登場だ。しかし少し緊張しているのだろうか。何度も噛み、言い直す場面があった。9人目の株主から出た言葉は、何と「学徒動員」だった。

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