ここで、アップルが次世代iPhoneで採用するとされ、注目が集まる有機ELについての質問が出た。テレビ事業などを担当する高木一郎・執行役EVPが回答した。

株主
「有機ELディスプレイは本格的に普及すると見込んでいるのか。(ソニーがパナソニックと有機EL開発事業を統合したJOLEDへの)出資比率の理由や根拠、有機ELディスプレイは普及するかどうか。ソニーでもテレビなどで使うのか」

高木執行役「有機ELについて、テレビの開発や事業の方向性は業務用で実績を積んで高い評価を得ている。テレビについては、以前より検討しているが、現時点で話せることはない」

平井社長
「出資比率はもともとソニーの一部の資産を共同出資会社に提供して新たな会社を作った経緯から。出資比率を維持しているが、今後について今、共有できる情報は特にない」 

 世間では話題になっているのに、有機ELについては、二人ともそっけない回答に終わる。いよいよ、最後の株主の質問になる。今回の総会では2回目となる経営ガバナンスに関するものだった。

株主
「事業ポートフォリオ上、エレクトロニクス事業が(全売上高の)65%程度を占める。しかし取締役会の皆さんのバックグラウンド、11人の中で、実際にエレクトロニクスを経営・運営した人はいない。なぜ、そういったエレクトロニクスに造詣の深い人を取締役に入れないのか」 

平井社長
「技術のソニーといっているので、技術に対する議論は重要だと思っている。その中で、エンジニアリングのバックグラウンドは特に重要だと思っている。取締役候補の中の3人、原田、伊藤、シャーフは技術系の経歴を持っている。エレクトロニクスの方向性などの議論は活発に実施している」

 平井社長の説明は、ソニーOBの伊庭氏、大曽根幸三氏などによる「技術に詳しい経営者を」「技術に詳しい社内取締役を」という主張を意識した回答なのかもしれない。

 質疑がすべて終わり、各議案の裁決に入っていく。1号議案、2号議案とも拍手。粛々と裁決が進む。

 そして11時30分、総会が閉会となった。またメガネをはずして平井社長が閉会の挨拶。深々とお辞儀し「ご協力ありがとうございました」と、会場にお礼を述べた。

復配の陰の課題、問われず

 「復配されてよかった」と言及する株主がおり、多くの株主が、業績回復と復配に安堵している様子が言葉の端々からうかがえたのが印象的だった。平井社長の回答のたびに、なぜか拍手が起こり、近年になく個人株主が経営陣に好意的な株主総会だったと言える。

 昨年の株主総会は時折、平井社長も厳しい表情を交えることが多かったが、今年は冒頭の妨害以外は終始、自信満々で余裕のある議事進行だった。

 意外に思えたのは、社内取締役が少なすぎるなど現状のガバナンス体制の是非に対する質問は2回出たものの、今後の中長期的な経営課題に関する質問が極めて少なかったことだ。

 「プレステ以降のヒット商品がない」と言われ続ける現状のソニーのイノベーション創出の力に疑問を投げかける質問は、昨年の株主総会では見られたが、今年はなかった。エレキ分野で次の稼ぎ頭となる事業は何なのか、その種まきは「SAP」と呼ばれる細々とした新規事業創出の取り組みで十分なのか、といった質問も今回はなかった。

 イメージセンサーも新たな収益の柱となっているが、スマホ市場が成熟するなかでボラティリティーが高いという課題も浮き彫りとなっている。そもそも、長年の研究開発の末に今のイメージセンサーを生みだしたような、長期的な視野の種まきは足元で進められているのかも明確ではない。

 ソニーの業績は回復しているが、やはり構造改革という名のリストラの効果が多分にあり、新しいヒット商品が業績回復を牽引したわけでもない。プレステ4は確かに売れているが、既存事業の延長線上にある商品であり、一般消費者全般で話題となっているものではなく、一部ゲームマニア向けの商品であることも否めない。その事業が伸びているだけで、未来のソニーは食っていけるのか。

 金融事業にエンタテインメント事業、エレキ事業と、ほぼシナジーのないコングロマリットとなったソニーが今後、どういう企業体を目指そうとしているのかもポイントだろう。緊急事態からのリストラが一服し、業績が回復してきたからこそ、今後のソニーグループの目指す姿を、新しいビジョンと共に明確にしていく必要がある時期に入っている。

 併せて、中長期での継続的な成長と利益創出について、まだ予断を許さない状況にあるエレキ事業全体の位置付けをソニーグループの中でどうしていくのかも曖昧なままだ。

 このように現状のソニーには、まだ課題がたくさんあり、社内外への説明を先送りにしてきた部分が残されたままとなっている。こうした状況の中で行われた、あまりに無風だった今回のソニーの株主総会については、とても考えさせられた。

 中長期の経営課題うんぬんより、まずは足元の復配が重要だ――。今年のソニーの株主総会は、そんな個人株主の本音が透けていたのかもしれない。お土産がなくなっても会場まで足を運び続ける問題意識の高い株主が集まったと思われるだけに、意外な結末。

 恐るべし“復配マジック”だ。

 来年以降も同じように無風な株主総会が続くのなら、それはまた経営陣に油断をもたらし、ソニーの新たな経営課題となっていくのかもしれない。