SF映画の世界が現実になる

『シンギュラリティは近い[エッセンス版]』/レイ・カーツワイル(著)/NHK出版

 レイ・カーツワイルの『シンギュラリティは近い』という本があります。シンギュラリティという言葉は皆さんも耳にし始めたことでしょう。技術的特異点、つまりコンピュータの能力が人間の脳を上回る時点のことを指します。

 カーツワイルは私と同じ70歳。私は7年前にグーグルを辞めましたが、カーツワイルはその2年後、65歳でグーグルに入社し、グーグルの次世代技術を担うプロジェクト「グーグルX(=当時、現在は名称変更により、X)」にかかわっています。

 実は私、カーツワイルとは、1980年代に会ったことがあります。場所は人工知能学会。その時、彼は「戦後生まれのベビーブーマー世代は永遠に生きられるぞ」と話していました。「傷んだ手足や内蔵はそのうち機械に置き換えることができる」とね。

 その男が5年前にグーグルに入社して、グーグルの次世代技術を担うプロジェクトにかかわっているのですから、やっていることは明らか。サイボーグをつくっているのです。あるいはもしかしたら、自分自身がサイボーグになろうとしているのかもしれません。

グーグルの次世代技術の開発を担うプロジェクト・企業である「X」のウェブページ。現在は持ち株会社であるアルファベットの子会社。

『ブレードランナー』の世界はすぐ間近に

 アップルの「Siri」、グーグルの「グーグルアシスタント」、マイクロソフトの「Cortana」、アマゾンの「Alexa」と、IT界の巨大企業はいずれもデジタル・パーソナル・アシスタントと呼ばれるアプリケーションに取り組んでいます。これらが完成するとバトラーサービスを提供することができます。「バトラー(butler)」とは主人とともに人生を歩む執事。アップルもグーグルも、いつかバトラーサービスを提供したいと思っているわけです。

 自分専用のAIバトラーが、世界のどこかのデータセンターにいる。物理的な形状として二足歩行のロボットで登場すると、分かりやすいのですが、ある時はスマホに現れたり、ある時は自動運転の自動車になってたりと、形状を変幻自在に変えながら我々とともに人生を歩んでくれることになります。サイボーグ・アンドロイドは、ご主人とバトラーとが一体化した形態と言えるでしょう。

 かつてはSF映画の世界の話だったことが、今では実現可能な未来と考えられます。自由を求めたアンドロイドが人類に戦いを挑む映画『ブレードランナー』の世界はもう間近に来ているのかもしれません。