慶応義塾大学大学院経営管理研究科(慶応ビジネス・スクール)が次世代の経営の担い手を育成すべく、エグゼクティブ向けに開設する「Executive MBA」。2017年11月の経営者討論科目ではグーグル日本法人の村上憲郎元代表取締役社長が「第4次産業革命の時代を生き抜く」と題して講義を行った。

 村上氏は今という時代には、コンピューティングパワーの向上、ビッグデータの発展、人工知能(AI)や量子コンピュータの急速な発達、スマートグリッドの普及など、様々な出来事がシンクロしてテクノロジーの進化が加速していると強調。これからの20~30年、我々の社会や産業は大きな変化に見舞われると予想し、「人類史を画するような大変革が迫っている」と意識改革を促した。

(取材・構成:小林佳代)

村上憲郎(むらかみ・のりお)氏
元グーグル日本法人社長/村上憲郎事務所 代表取締役
1947年大分県生まれ。1970年京都大工学部を卒業後、日立電子に入社。1978年日本ディジタル・イクイップメント(DEC)に転じ、1992年同社取締役企画本部長に。1994年米インフォミックス副社長兼日本法人社長、1997年ノーザンテレコム(後にノーテルネットワークス)ジャパン社⻑、2001年ドーセントジャパン社長などを歴任。2003年グーグル米国本社副社長 兼 日本法人社長に就任。2009年グーグル日本法人名誉会長に。2011年村上憲郎事務所を開設し代表取締役に就任、現在に至る。(写真:陶山 勉)

モノとモノの間で勝手にコミュニケーションが始まる

 インターネットやデジタルデバイスは、モバイルからウエアラブル(身につけるタイプ)、インプランタブル(体内への埋め込みタイプ)へと変化してきました。一方、電力網の分野で一気に進んでいるのがスマートグリッド化です。

 スマートグリッドとは電力網と情報網を束ね、賢くしたもの。電気機器や家、工場、オフィスの消費電力をリアルタイムに「見える化」したり、不要不急な電気を使わないようにしたりすることができます。

 電力網がスマートグリッドになっていくと、電力を必要とし電力網につながっているあらゆるモノが、新しい電力網であるスマートグリッドにつながることになります。あらゆるモノがインターネットにつながるIoT化の始まりは、スマートグリッド化です。そして、スマートグリッドの時代となり、電力を必要とするあらゆるモノがインターネットで結ばれると、さらにビジネスチャンスが生まれる。

 日本は今、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて色々な改革を進めています。2019年ごろにはそれらがほぼ完成します。2019年ぐらいに販売される電気機器で、インターネットにつながらないものはほとんどなくなるでしょう。

あらゆるモノがインターネットにつながる。(画像:PIXTA)

 スマートグリッドにつながる端末は何かというと、スマートハウス、スマートビルディング、スマートキャンパス、スマートメーター(通信機能のほか高度な機能を持った電力量計)、スマートアプライアンス(エネルギー消費を最適化する機能を持った家電製品)、スマートカーなどなど……。今あるものに何でも「スマート」をつければスマートグリッドの端末になり得ます。

 今、皆さんはインターネットを主に人と人とのコミュニケーションに使っていますが、IoTの時代には人とモノの間、モノとモノの間でも勝手にコミュニケーションが始まるようになります。

 ある調査では、2018年末には世界で80億台のIoTデバイスが登場するという予測が出ています。米シスコシステムズは「IoT」なんていうのはまどろっこしいと、「IoE(Internet of Everything)」という言葉を使っています。そうすると2020年にはデバイスは500億台に達するのではないかといった予測もあります。

 台数はともかくとして、これほど急激にあらゆるモノがインターネットにつながる時代を迎える皆さんのビジネスが、この影響を受けないはずはありません。

農業も先端テクノロジーの導入で一変する

 例えば、米国の巨大化学会社のモンサントは今、先端テクノロジーを農業に導入する「スマートアグリカルチャー」を遂行中です。契約農家に対し、土壌のph(酸性/アルカリ性)値や含水量、日照時間、温度、湿度などを測定したデータをもとに、タネをまくタイミングから水や肥料量などを指導することで収穫量を保証しています。しかも、土壌や気象の条件がほぼ同じ隣の農地を持つ農家に対し微妙に指導内容を変えることで、収穫量や品質の差をテストしているといわれています。経験・勘頼りだった農業ビジネスを極めて精緻なものに変えようとしています。

農業分野にもドローンなどといった先端テクノロジーの導入が進んでいる。(写真:rustsleeps/123RF)