やらない言い訳「7S」を排除しよう

何度でも繰り返し、「やろう」と言い続けなくてはいけないのです。

 「鉄と経営」というテーマでお話ししてきました。方向が決まれば、後は実行です。ここからは話をガラリと変えましょう。新日鉄住金の経営課題の話からは離れ、私が個人的に、仕事をする上で心がけてきたことについてお話させていただきます。

 私が、みなさんに何よりも強調したいのは、自ら「やろう」と言い出すことの重要性です。「やろう」と言わなくては、何も始まりません。1人でできることなら、すぐにやればいいのですが、たいていの仕事は組織で取り組むものであり、ほかの人にも動いてもらわなくてはいけません。だからこそ、「やろう」と声を発することが大事です。

 しかし、実際のところ、「やろう」と言っても人はなかなか動いてくれません。自分の直属の部下だけで進められるならまだいいのですが、隣の部署とか関係している部署を巻き込んでやろうとすると、非常に難しい。だから関係する人たち全員に対して、何度でも繰り返し、「やろう」と言い続けなくてはいけないのです。

 「やろう」と言い続け、耳を傾けてくれても、次は「やらない方が良い理由」が出てきます。ビジネスパーソンの多くの時間は「やらない理由」を考え、発することに費やされがちです。本質的、科学的な理由なら良い。現実は、やらない、やりたくない「言い訳」が多いのです。そのような言い訳を、次の7タイプに分け、無理繰りに「7S属」と名づけてみました。

やらない言い訳、7S属

 ①サボり属
 ②定め属
 ③世評属
 ④世界では属
 ⑤政府属
 ⑥センチ属
 ⑦ステークホルダー属

 どこにでもあるのが「サボり属」です。「忙しい」とか「今、やろうと思っていました」とか言う、やらない言い訳。単にサボりたくてやらない。

 第2が「定め属」。「それはコンプライアンス違反です」、「個人情報保護ルールに反します」、「社内規定です」と、何かというと“定めです”を理由にします。これはなかなかしぶとくて曲者です。

 第3が「世評属」。「レピュテーションリスク(風評リスク)があります」、「企業の社会的責任があるので」といったことを理由にします。

 第4が「世界では属」。「日本ではそうでしょうが、米国では違います。だからやらない方が良い」という具合です。ひどい人は、地理的拡大妄想の言い訳に走ります。ワシントンD.C.しか知らないのに「米国では~」、さらに広がり「欧米では~」やロンドンのことしか知らないのに「ヨーロッパでは~」、などと言い出す。この手は、世の中にたくさんあります。

 第5が「政府属」。「お役所が駄目と言っています」という種類の言い訳です。実際にはそんな事実はないことも多い。

 第6が「センチ属」。「好き」とか「嫌い」、「苦手」といった感覚や感情を理由にやろうとしない。全く合理的ではないのですが、こういう言い訳を撃退するのは、意外と大変です。

 第7が「ステークホルダー属」。お客様が、株主が、地域が、従業員が、組合が…と言い訳してやろうとしない。

 ここで説明した7Sは、実は、他人の言い訳だけでなく、自分の中で言い訳になっています。本来、自分が「やろう」と言わなくてはいけない、自分がやらなくてはいけないという時に、自分の中でも7Sが出てきて「やめておこう」となることがあります。常に心して7Sにとらわれない思考、7Sフリーの思考を自ら行うことが、重要だろうと思います。

物事を進める時は大きくした方がうまくいく

 最後に、私の造語ですが、「More is less」という言葉を紹介します。

 近代建築の3大巨匠の1人で、ドイツ出身のミース・ファン・デル・ローエが提唱した、「Less is more」という言葉を知っている人もいると思います。「より少ないことは、より豊か」といった考えです。

 これをもじったのが「More is less」。どういうことかと言うと「問題を大きくした方が、かえって事がうまく行くことがある」ということ。推進への抵抗が小さくなる。手間が減る。私は自分の経験に照らして、そう考えています。

ベスト・オブ・ザ・ベストの体制で臨んで、絶対勝つ

 なぜ大きくした方がいいのか。理由は幾つかあります。その一は、結果的に勝率が上がるということです。例えば、費用をかけてもらいやすくなります。我々が勤めているのは、民間企業ですから、当然、費用対効果が求められます。経営者は事を始める時、結果の小さい案件には、あまりお金をかけようとしないものです。つまり、「うまくいくと10億円になります」というのと、「うまくいくと1000億円になります」というのと、どちらにお金を出そうと考えるか。当然、後者です。

 次に、大きな案件は世間の注目も集めます。時にメディアにも取り上げられる。やっている人にとっては、大変な励みです。家族や友人からも関心を持って見てもらえる。一種の「報酬」になると私は思います。さらに、大きい案件に対しては、上司や周りの人も積極的に動いてくれます。インクルーシブ(包摂的)なプロジェクトになり、社内で協力を受ける際の優先順位が、上がります。

 もちろん、こうして注目や期待を集める分、責任も重くなります。でもそれで結果的に大きな案件をやり遂げることができれば、自分自身の成長にもつながります。ベスト・オブ・ザ・ベストの体制で臨んで、絶対勝つ。そんな志が必要です。ぜひそういうことも意識して、仕事に向き合ってみたら良いかと思います。