「よけいなことをするな」という文化に染まっていた

受講者:正露丸はかなり早い時期から海外に出ていたようですが、ブランド認知をどのように高めながらビジネスを広げてきたのかを教えてください。

柴田:戦前、日本軍が植民地支配していた地域には、正露丸市場がすでに確立していました。戦後間もなく、香港の代理店だった会社を販売拠点として華僑ルートに出荷しています。現在、香港での正露丸の1人当たり販売量は日本の20倍にも達しています。

 その代理店からは正露丸が世界中に広がっています。ブラジルなんかでも、「正露丸をください」というと中華系の薬店でぽっと出てくる。ただ、ビジネスとしては受動的ですね。

 中国では薬の規制がどんどん厳しくなっていて、内服のOTC医薬品で更新できているのは正露丸だけ。CMを打つこともできないので、なかなかジャンプアップは難しいというのが現状です。ただリピート率は本当に高いので、マーケティングをリセットしたいと思います。

 華僑ルートではASEANにも出ています。そちらはまだどんどん伸びている状況です。こちらも、もう一回マーケティングを見直していきたい。下痢の効能以外で「アニサキスに有効」という新たな効能で勝負するか、または「脱水予防」という機能を強調して健康食品で拡販するか、その辺りを思案しているところです。

受講者:柴田さんは大幸薬品の経営に携わるようになってすぐにIPO(株式公開)を目指すという意思決定を行っています。成長のためにIPOが必要というお考えだったと思いますが、成長という目的であれば、ほかにも選択肢はあったのだろうと想像します。その中でなぜIPOを選んだのか、教えていただければと思います。

柴田:まず、上場するといい人材を口説きやすいというのがあります。もう1つは風土改革ですね。大幸薬品は創業70年以上の会社です。終身雇用で、過去には人の入れ替えもほとんどありませんでした。私の父は、「よけいなことをするな」「テレビコマーシャルを打って、倉庫から製品を出荷していたらそれでいいんだ」という経営をしていました。そういう文化に染まった会社を変えるには上場が必要でした。

 モチベーションが高く、ハイパフォーマーが集まっている会社だったら、上場が正しい選択かどうかはわかりません。上場すれば管理コストだけで1億~2億円かかりますから。逆に、会社をM&A(合併買収)されて雇われ経営者になるという手もあります。いろいろな選択肢があると思います。

 たまたま私たちの会社は老舗のコテコテの会社だったので、荒療治としてIPOというカードを切ったということです。