構造変革のスピードは遅い、クラウド化の進展に期待

受講者:私は今、企業のIT部門に所属しています。まさに今、お話があったように、私たちはシステム開発会社に3割をゆだね、自社内で7割を行うスタイルにしたいと思っています。社内のシステム要員でオペレーションができるIT部門にしようと組織改造をしてきたところです。
 その中で一番ハードルが高かったのは、やはり人材の問題です。日本には人材の流動性がない。エンジニアを雇おうと考え、年間150人ぐらいの面接をしましたが、なかなか適任者が見つかりません。結局、現時点ではある一部だけを社内のシステム要員で設計・運用するにとどまっています。
 ただ、先ほどおっしゃっていたように、海外と比べてこのように偏った構造があると、日本では企業を経営していく上でITコストが非常に大きくなってしまう傾向があります。グローバルに激しい競争を繰り広げていく中でこれは大きな障害です。早く変革が進まなくては日本経済にも悪影響です。下野さんはこうしたIT部門の構造改革は、今後どういうスピード感で進むと考えていらっしゃるでしょうか。

下野:まずは、日本の現状ではまだまだ中途で優秀な社員を確保することは容易ではありません。また、データベースのプロみたいな30歳くらいの人材が金融機関などの正社員として人生設計をするのもなかなか困難です。もちろんIT分野を専門に担当する子会社では道は開けますが。プロジェクトの山谷や技術の変遷というタレントの変動性を社員で充足するのは大変難しいですので、お悩みはよくわかります。

 また先ほどお話したように、例えば、CRM(顧客関係管理)はA社、ERP(基幹系情報システム)はB社という具合に、いろいろなベンダーに開発を委託します。その結果、システム開発会社ごとの異なる仕組み(設計技法、ミドルウェアなど)が入り組み、全体を見ると“スパゲティー状態(異なるシステムが絡み合って、改修やメンテナンスが生産的でない構造)”になってしまっている。こうなると、一番手間がかかるのがテストです。コードを数行変えただけでもテストに膨大なワークロード(作業負荷)がかかることが起こり得ます。僅かな変更であっても、その結果について、膨大な可能性(テストパターン)を確認しなくてはいけなくなってしまうのです。

 こういうことをやっている限り、ITコストは膨らむ一方です。おっしゃる通り、この構造が今、日本企業の足を引っ張る要因になり得ると思います。あなたの会社は時代の変化を待つ方針だとのことですが、残念ながら、この問題は日本固有の雇用形態や人材の流動性にも依存しているので、日本のIT分野での人材の構造改革はそんなに早く進まないのではないかと思います。

 今後の可能性として期待できるのはクラウド化です。特にクラウド上のSaaS(アプリケーション)をどう活用するかが、ひとつの大きな解決への道筋ではないかと思います。

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