日本では“ゾンビ企業”も生き残っている

 トランスフォーメーションについてお話します。本来、企業も事業も「新陳代謝」が必要です。しかし、日本ではどちらの新陳代謝も、なかなかうまくいきません。

 社会の効率性の面から言えば、企業は「多産多死」であるべきですが、日本のビジネスシーンにおける実態は米国とは異なり、「少産少死」です。もはや立ち行かなくなった企業もゾンビのように残っています。

 戦後の高度経済成長期からバブル崩壊前までは、すべての産業が成長していましたから、かつて企業は人材が逃げないよう終身雇用などで囲い込んでいました。しかし、バブル崩壊で成長が止まった後も、生きているか死んでいるかわからないゾンビ企業に、多くの人材が閉じ込められた形となっています。

 社員自身も給料はあまり上がらなくてもいいから、60歳までいたいという思いがあります。米国のように優秀な人材が非成長産業から成長産業にダイナミックにシフトし、社会が元気さを維持するようなメカニズムができていないのが、日本経済の弱点といえると思います。

 事業についても同じです。本来、不採算事業に関しては、ROE(自己資本利益率)などの財務的な基準や、市場の成長性や他の事業への貢献度などといった非財務的な基準で選別し、撤退することを考えなくてはなりません。“コア事業”を絶え間なく見直さなくてはいけないのです。それにはトップダウンでの決断が不可欠です。

経営者の「心の岩盤」が変革を妨げる

 米ゼネラル・エレクトリック(GE)のジャック・ウェルチ元CEOは「ナンバーワン、ナンバーツー戦略」をとり、市場でナンバーワンかナンバーツーのポジションでない事業は、原則として売却しました。その結果、家電、航空エンジン、金融、医療、電力などを手掛けるコングロマリットに成長しました。

 経済同友会の小林喜光代表幹事(三菱ケミカルホールディングス社長)は、「事業の組み替えを妨げるのは、経営者の『心の岩盤』」と言っています。具体的には、「すべてがコア」「事業売却は悪」といった思い込みです。中には「従業員に手をつける会社はブラック企業」という思いを持つ経営者もいるようです。私は、不適切な労働時間を社員に課したり、不適切な賃金しか払わない企業はブラック企業だと思いますが、その時のビジネスの要請に合わせて社員の再配置や削減を進める企業をブラック企業とは思いません。

 このようにトランスフォーメーションは日本の社会ではなかなか実行が難しいのですが、手を尽くしてこれを実現しなくてはなりません。

「“コア事業”は絶え間なく見直さなくてはなりません。それにはトップダウンでの決断が不可欠」 (写真:陶山勉)