米国や中国の消費者は最近、現金すら持ち歩いていない

受講者:経営者はトレンドを読みながら経営をしていくことが重要と説明していらっしゃいました。世界の保険業界を見るとITを活用した新しい保険の形「インシュアテック(保険=InsuranceとTech=Technologyを組み合わせた融合分野の総称)」の普及が進むなど、色々な形で保険業界が変わりつつあります。こういうトレンドを踏まえて、日本の生命保険業界はどう変わっていくと考えていますか。

斎藤:先日、米トイザラスの経営破綻がニュースになりました。明らかにアマゾンの影響ですよね。バーチャルの世界が我々の生活の中に深く浸透してきたということなのだと思います。

 この波は生命保険の世界にも必ず押し寄せます。保険って、買うのはとても面倒なもので、購入者は「短時間でベストの商品を選びたい」と思っていますから、自動化はどんどん進んでいくと予想しています。ただ、日本では他の国に比べてその進捗は遅くなるでしょう。日本の保険業界は人が多い。雇用を維持するために自動化も徐々に進行せざるを得ないだろうと思います。

 ワールドワイドにみればデジタル化はあらゆる分野で進んでいきます。米国や中国の消費者は最近、現金すら持っていないですね。私は米国に住んでいる日本人の友達に会った時には必ず「今、サイフにいくら入っている?」と聞くことにしているのですが、せいぜい10ドルぐらいしか入れていない。

 この分野でも日本は遅れがち。現金払いを前提としたよいシステムがすでに出来上がっているからです。その出来上がったシステムを壊すというのは大変なことなのです。そういう意味では、保険と同じですね。

多様な“軸”を想定することで、イノベーションを起こす

受講者:航空会社に勤めています。これからの時代は「マーケット・イン」よりも「プロダクト・アウト」の発想が重要というお話がありました。業界の特性なのか、我々のビジネスでは「お客様は神様」という意識が染みついています。実際にお客様からそう言われることもよくあります。商品を開発する際には、ものすごくたくさんの調査をして、お客様の意向をくみ入れようとしています。
 プロダクト・アウトへのシフトというのは、世の中全体が進むべき方向なのか、業界や分野によっては違うところがあるのか、どうなのでしょうか。

斎藤:難しいですね。考え方だけ少しお話をしたいと思います。航空業界の場合、国内には大手が2社しかなく、日本人全員がお客さんという状況です。その中で果たして全く新しくプロダクト・アウトの商品を提供することができるのか。「お客様は神様ではない」と割り切れるのか。

 提供するサービスを絞り込んだLCC(格安航空会社)はそれを遂行した存在といえるでしょう。

 米国でアマゾンが先ごろ買収したホールフーズ・マーケットも「お客様は神様」という発想から、かなり離れたビジネスをしていました。オーガニックフードを取り揃え、値段はふつうのスーパーより高い。「合わない人は来なくていいですよ」というスタンスです。でも、例えば世界最大のスーパーマーケットであるウォルマートが最初からそういうスタンスの店を運営できたかというと、それは難しかったでしょう。

 同じようなことはスターバックスにもいえます。日本に進出した際、スターバックスは全面禁煙としました。では国内にある既存の喫茶室ルノアールやドトールコーヒーショップにも同じことができたか。やはりできなかったでしょう。

 イノベーションは無からは生み出すことはできません。あるものとあるものを結びつけることで生まれるものです。結びつける対象が多ければ多いほどイノベーティブなものが生まれる可能性が高まります。国という軸、業種という軸、時間という軸を広げて考えた結果、生まれたのがそういう「お客様は神様」という発想とは異なる新しいサービスだったということです。

 今の組織や今のブランドの中で果たして同じことができるだろうか。マーケット・インが適しているのか、プロダクト・アウトを貫く方がいいのかを判断するには、こういうことを考えていくことが必要になると思います。