ピンチに陥った時、社員が動くきっかけはカネではない

 日本レーザーは取引メーカーから契約を切られたり、急激に円安になったりというピンチの時、社員みんなが無理をして頑張って「火事場の馬鹿力」を発揮してくれたから今日まで生き残ることができました。こういう火事場の馬鹿力を発揮できる会社の体質をつくることは非常に重要です。

 私はこれまで、純然たる日本的経営も、典型的な米国的経営も、その両方を経験しました。その経験から言うと、米国的経営はピンチの時には全く力を発揮できません。欧米流の個人主義、他責主義が悪い影響を及ぼしてしまいます。

 ではピンチの時に社員が爆発的に力を発揮する会社はどうつくっていけばいいのか。「言いたいことが何でも言える明るい風土がある」「社員が会社から大事にされていると実感している」「会社は自分のものだという当事者意識を持てる」といった環境をつくることだと私は思います。

 社員はカネで動くわけではありません。昇進や昇格でもない。その証拠に日本レーザーには9年もの間、昇給・昇進がなくても変わらぬ熱意を持って働いている社員がいます。

 9年も昇給・昇進がないのはなぜか。日本レーザーは2008年に「TOEIC500点以上でなければ正社員としない」という就業規則を定めました。TOEICは一般に英語力テストと考えられていますが、私自身が63歳で初めて受験して、むしろ情報収集能力テストだと考えています。2時間で200もの問題に回答しなくてはなりません。「今日の夕飯何を食べようかな」「あそこにきれいな女性がいるな」なんて思った瞬間、質問が追いかけられなくなってボロボロの結果になります。集中力、判断力、注意力、タイムマネジメント能力が非常に問われる試験なのです。

 2007年、日本レーザーは親会社から独立したことで、赤字に陥った時に助けてくれる存在はいなくなりました。せめて社員一人ひとりが情報収集能力を高め成長してほしいと考えたのが新たに就業規則を定めた理由です。

昇給・昇進が止まっても、意欲を失わない社員

 社員にTOEIC受検を課した最初の年、500点に到達しない社員は12人いました。彼らの場合は後からできた就業規則ですから、「500点を超えていない」という理由で正社員を辞めさせるわけにはいきません。ただ、辞めさせない代わり、昇進・昇給はストップすることにしました。業績次第でボーナスを増やすことは可能ですが、給与のベースは上がらない。しかし、一生懸命勉強して500点に到達すれば、留め置いていた年数分の昇給分を取り戻すことができる仕組みにしています。

 現在、500点に到達していない社員は4人。調べてみると、この4人はこれまでに合計9回の昇進・昇給の機会を逃したことになります。トップを走る社員の中には36歳で部長になり、40歳で執行役員に選出されている者もいます。既に年収は1000万円ほど。昇給・昇格が止まっていて業績への貢献度も低い社員とは500万円近く差がついているはずです。圧倒的な格差です。日本レーザーはそういう面では非常に厳しい。それでも500点に到達していない社員たちも会社を辞めようとはしません。熱心に仕事をしています。

 なぜかといえば、先ほど説明したように、言いたいことが何でも言えて、会社から大事にされているという実感が得られて、また会社は自分のものだという当事者意識を持てるからでしょう。好きな仕事ができ、その仕事で少なからず会社に貢献できているというやりがいや達成感を感じているからこそ、いざという時にももうひと頑張りできるのです。

次ページ 社長と社員が信頼と魅力と共感で結びつく