日色 保(ひいろ・たもつ)
1988年静岡大学人文学部法学科卒業後、ジョンソン・エンド・ジョンソンに入社。医療機器の営業、マーケティング、トレーニングを担当。外科用機材部門と糖尿病関連事業部門の事業部長を経て2005年にグループ会社オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス社長に就任。2008年同社アジアパシフィック事業も統括。2010年ジョンソン・エンド・ジョンソンメディカルカンパニー成長戦略担当副社長シニアバイスプレジデントに就任。2012年から現職。(写真は北山宏、以下同)

 慶応義塾大学大学院経営管理研究科(慶応ビジネス・スクール)が次世代の経営の担い手を育成すべく、エグゼクティブ向けに開設する「Executive MBA」。6月の経営者討論科目の授業には、ジョンソン・エンド・ジョンソンの日色保代表取締役社長が登壇し、「ジョンソン・エンド・ジョンソンにおける人材育成とリーダーシップ」をテーマに講義を行った。

 授業の後半には日色社長と受講者との間で質疑応答が繰り広げられた。女性の活用やジョブローテーションなどジョンソン・エンド・ジョンソンの人材育成を深掘りする質問のほか、新しい取り組みをいかに組織内に広げるか、部署ごとの垣根が高くなった組織をいかに融和させるかなど、受講者が日々のビジネスシーンで直面する課題に関しての質問が投げかけられた。日色社長はあるべきリーダー像、上司像を示しながら、一つひとつに丁寧に回答していった。

(取材・構成:小林佳代)

受講者:人を育成するにはやったことのない仕事をやらせることが大切というお話でした。そういう経験は本当に大事だと思います。反面、当然ながらやったことのない仕事ですから失敗する可能性もあるわけで、いざという時のリスク管理が大事になるように思います。いろんなタイプがいて、キツい時にすぐにSOSを出すメンバーもいれば、ギリギリまで抱え込むメンバーもいると思います。日色さんはどのように対応してきたのか、教えてください。

日色:リーダーシップにはエンパワーメントが大事という話をしましたが、エンパワーメントは丸投げではありません。新しい部署に異動させる、やったことのない仕事を経験させるといっても、高みの見物になってはいけません。英語で「sink or swim」と言いますが、沈むか泳ぐか、どの程度できるか見てみよう、というのはエンパワーメントではない。その人が成功するようにサポートしてあげなくてはなりません。

 ですから、ものすごくコミュニケーションが大事になります。「何をしようとしているのか」「どうしてその戦略を選んだのか」ということを部下とよく話し合います。部下からすると、そう聞かれて説明している間に、自分の戦略の明晰度が上がっていくということもあると思います。

 対話の過程で「これはヤバいぞ」と思った時には、方向性を変えるよう、導くこともあります。その際もディスカッションの中で本人に決めさせます。そうしないと、仮に失敗した時にも、自分の失敗ではなく、上司のせいで失敗したと思ってしまうので。重大な失敗はさせずに、でも本人に決めさせるということが重要だと思いながら対応しています。

受講者:ジョンソン・エンド・ジョンソンは様々な経験を積ませて人材を育成していく方針ということですが、そもそも採用の際にはどういう点に重きを置いて人材を見極めていますか。

日色:どういう状況でどういう人材を採用したいのかによって違います。「こういうタスクをしっかりやってくれる即戦力が欲しい」となれば、やはり実績をしっかり見ます。そうではなく、「ゼネラルに営業やマーケティングにかかわる人材が欲しい」ということなら、アップワードポテンシャル、つまりどれぐらい伸びしろがあるかを重点的に見ます。色々な経験を積ませて成長させようというスタンスですから、伸びしろがあるか否かは非常に重要です。

 では、伸びしろとは何か。私は知的好奇心があることと、ラーニングアジリティーと言いますが、学習面での俊敏さを見ています。面接の際の質問でも、「どれぐらいのスピードで新しいことを吸収して仕事に活かしたいか」といったことを聞くようにしています。

 あとは本人に向上心や野心があるか。特に女性では時々すごく優秀だけれど、あまり向上心がない人というのがいますが、それでは困る。伸びようという向上心があって、知的好奇心があって、学習能力が高い、学習が速いという人を採るようにしています。