都心の宮城野校舎だからこそ、帰宅させるという判断をした

受講生B:今のお話ですが、生徒を帰宅させるというのは自分たちの管理下から離してしまうということで、非常に勇気がいる決断ですよね。いざという時、僕自身はそういう決断ができるだろうかと思うのですが、この決断を下した背景を少し聞きたいです。

加藤:非常に悩みました、実際には。けれど頻繁に余震が続いている中です。雪も降り気温は氷点下になりました。校舎の中に入れるならばいいけれど、危険で入れないんです。

 宮城野校舎は仙台駅から歩いて30分もかからない都心部にあります。仙台の街の中は岩盤でできているので安心です。海の方へ向かうほど恐い。ですから、内陸部に住んでいる子たちは何時間かかったとしても、家に帰れるだろうという判断をしました。

 一方、沿岸部に住んでいる子たちはそうはいきません。津波が来ることも分かっていましたから。そういう子たちは多賀城校舎に来させるということにしました。

 仙台の街の中心部にある宮城野校舎だからこそ、帰宅させるという判断をしたということです。

 電話はつながりませんから、子供の安否を確認したいと学校まで来た保護者もいます。そういう方は子供を連れて帰りました。「同じ方向だから友達も一緒に連れて帰りますよ」と言ってくださった保護者には「ぜひお願いします」とそうしてもらいました。中には宮城野校舎からひとりで自宅に帰ろうと思って歩き出したものの、途中で疲れて避難所で一晩過ごしたという子もいます。

 確かに、宮城野校舎の生徒を帰宅させる方針に対するクレームは寄せられました。「こんな危ない中を帰らせるなんて、何を考えているのか」というわけです。私は様々な情報や状況を分析し帰宅可能だと判断しましたが、もちろんそういうお考えの方もいるでしょう。

「何をやっても異論は出る」と覚悟する

加藤:でもね、何をやっても必ず異論とかクレームは出るものなんです。何をやってもです。100点満点の対処なんかない。だから、覚悟を決めてやるしかないのです。ずっと考え続けているのは何もやらないのと同じです。何もやらなければリスクはないけれど、そういうわけにはいきません。

 学校というのは非常にフラットな組織です。企業のように社長がいて、その下に専務がいて、常務、部長、課長、主任がいるというピラミッド型の組織ではない。校長がいて教頭がいたら、あとはみんな同じ教諭です。教務部長とか生活指導部長とか、部長という名前はついているけど、立場は同じ。極めてフラットです。

 そういう組織では、何か事が起きて「さあ、どうする」となると、みんな私の顔を見ます。「責任者は何を言うか」「どういう指示を出すか」と。その重圧に耐え、深く考えをめぐらせたうえで、腹をくくって決断をするしかないと私は思うのです。

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