佐藤可士和(さとう・かしわ)
クリエーティブディレクター。慶応義塾大学特別招聘教授、多摩美術大学客員教授。 1965年生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒。博報堂を経て「SAMURAI」設立。主な仕事に国立新美術館のシンボルマークデザイン、ユニクロ、楽天グループ、セブン-イレブン・ジャパン、今治タオルのブランドクリエーティブディレクション、「カップヌードルミュージアム」「ふじようちえん」のトータルプロデュースなど。毎日デザイン賞、東京ADCグランプリ他多数受賞。『佐藤可士和の超整理術』『佐藤可士和の打ち合わせ』など著書多数。(写真・陶山勉、以下同)

 慶応義塾大学大学院経営管理研究科(慶応ビジネス・スクール)が次世代の経営の担い手を育成すべく、エグゼクティブ向けに開設する「Executive MBA」。5月の経営者討論科目ではクリエーティブディレクターの佐藤可士和氏が「アイコニックブランディング」をテーマに講義を行った。

 授業後半には佐藤氏と受講者との間で質疑応答が繰り広げられた。ブランディングで重要なポイントや、制約・既成概念などがある中でブレークスルーをどう生み出すかといったブランディングの本質を問う質問のほか、アイデアや発想の源、複数プロジェクトを同時進行する方法など、佐藤氏個人の仕事の進め方についても多くの質問が投げかけられた。

(取材・構成:小林佳代)

受講者:ブランディングという言葉について、改めてお聞きしたいと思います。佐藤さんのお仕事はクライアントとたくさん話をして、一緒に作品を作り上げて、世の中に印象を残していくこと。それが結果的にブランディングを高めることにつながるのだと私は理解しました。では佐藤さんにとって、ブランディングとは何なのか。ブランディングという言葉をどのように定義しているのでしょうか。またブランディングをしていく上で大事だと考えているポイントをお聞かせください。

佐藤:ブランディングとは社会の中での存在感を高める作業です。よく僕が言うのは、「伝わっていないのは存在していないのと同じ」ということです。存在していなければ、誰からもコンタクトされません。「存在している」ということが正確に伝わるのはすごく大切なことです。山のようにある情報の中で、Aという会社があります、Bという商品がありますという存在感をどうやってつくりあげていくか。デザインのあり方、営業の活動、オフィスのつくりなど、すべてのタッチポイントをコントロールして、自分たちの存在感を上げていくことが重要だと僕は思います。

 どんな企業も商品も、優れたところもあれば、弱いところもあります。僕はブランディングでは足りないところをまんべんなく埋め込む作業は必要ないと僕は思っていて、優れたところをピーンと伸ばすことが大事。その方が社会の中での存在感は上がります。

受講者:外資系企業で営業を担当しています。外資系企業では営業のことを「Sales Representative」と呼びます。その会社が提供できる価値、会社の強み、競合に対するアドバンテージなどをお客様に提示し、理解してもらって商品やサービスを買ってもらう。今日、佐藤さんがお話しになったアイコニックブランディングも1つのリプレゼンテーションだろうと思いますが、リプレゼンテーションについて、どういう意識を持っていらっしゃるのか、教えてください。

佐藤:物事を伝えるこということは本当に難しいですね。僕は博報堂に入った時、「伝えることはこれほど難しいのか」と思い知りました。ただ、そういう伝えるのが難しい物事でも、ある人の視点でリプレゼンテーション、つまり再提示することで、より本質がわかりやすくなる場合があります。その人の視点で編集し、伝えるべきことを整理することで情報がクリアになるのです。

 僕がクリエーティブディレクターとしてブランディングに携わる際も、「外からの視点」でその企業の本質や魅力、特色を明確につかみ取り、世の中に対し、より新鮮な形で提示しようと考えています。

 例えば、今治タオルで安心・安全・高品質をコンセプトにブランディングしていったのは、ちょうど輸入食品などの衛生問題が指摘され、社会の意識がより安心・安全に向いていった時期だったからです。当時は食品のトレーサビリティーにも大いに関心が高まっていました。

 考えてみたら、タオルって肌に直接触れるものだし、毎日使うものです。食品の次ぐらいに、タオルの安心・安全って大事なこと。ならば、食品分野でのトレーサビリティーへの関心をタオルにも向けてもらおうと考えたのです。

 こうしてフィルターを通して再解釈するというのは、わかりやすい言葉でいえば、“見立て”ですね。リプレゼンテーションというのは見立て力であり、それを強化していくことは非常に大事だと思います。