(前回から読む)
講義の終盤、受講生との間で活発な質疑応答が繰り広げられた。心が弱った時の対処方法、リーダーの資質のない上司との付き合い方といった身近な問題から、国や政治のあり方を変えるための行動まで、多種多様な質問が飛び交った。
(取材・構成:小林 佳代)

ライフネット生命保険代表取締役会長
1948年三重県生まれ。京都大学を卒業後、1972年に日本生命保険に入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て、同社を退職。2006年にネットライフ企画設立、代表取締役社長に就任。2008年にライフネット生命保険に社名を変更、生命保険業免許を取得。2016年6月より現職。 主な著書に『生命保険入門 新版』『直球勝負の会社』『生命保険とのつき合い方』『日本の未来を考えよう』『働く君に伝えたい「お金」の教養』『「全世界史」講義Ⅰ』『「全世界史」講義Ⅱ』『「働き方」の教科書』など。
(写真=陶山 勉、以下同)
数字・ファクト・ロジックで考えたことを実行するだけ
【ライフネット生命の経営について】
(受講者)出口会長は非常に発想が新しく、柔らかいと感じます。40歳の岩瀬大輔社長をパートナーとしているのもそうですし、ライフネット生命ではひとり親の方のための保険商品を開発したり、契約者の方たちとランチに行ったり、従来の保険会社にはない取り組みを取り入れています。どういうところから、その自由な発想がわくのかをぜひ教えてください。
出口:それは、数字・ファクト・ロジックで考えたら「これしかない」と思うからです。僕はいつも自分のことを普通の人間だと思っています。講演でも「面白い話を聞かせてもらいました」という感想をもらうことが多いのですが、僕自身は面白いことを言っているつもりは全くないのです。
たとえば、日本のビジネスパーソンは年間2000時間働いています。これは1990年代初めから全く変化していません。厚生労働省のデータを見ると、1700時間に減っているように見えますが、これは非正規雇用の社員を入れているからであって正規雇用の社員は2000時間で変わりません。当然のことですが夏休みは1週間取れるかどうかです。
こんなに長時間働いて成長率はどれほどかというと、国際通貨基金(IMF)は2016年の日本の成長率を0.3%止まりだと予想しています。米国は2.2%、ユーロ圏は1.6%。しかもヨーロッパの多くの国は1300~1500時間労働で夏休みは1カ月あります。皆さんはどちらの環境で働きたいか。聞くまでもありませんね。
かつての日本は高度成長を遂げていたから、こんなに長く働くことも許せていたのでしょう。ではどうやって高度成長を実現していたかといえば条件が3つありました。「米国に追いつき追い越せ」というキャッチアップモデルを取っていたこと、人口の増加、冷戦構造の3つです。
今、この3つの条件はすべてなくなっているのですから、働き方を変えていかなくてはいけない。なのに全く旧態依然とした採用を行い、全く同じようにダラダラと残業をさせている。こんな状態だから日本は働いても働いても貧しくなっているのだと思います。(1991年の賃金は36,152ドル。2014年は35,672ドルと低下。もちろん先進国で下がっているのは日本だけ)長時間労働を行って生産性が上がったというデータは皆無ですから、僕はよほど大事な仕事がある時以外は定時に帰すことが必要だと思っています。
Powered by リゾーム?