予想外の反応に驚きましたが、翌日からAくんの言動を注意深く観察することにしました。部下の言う通りで、「この人に気に入られたい」と思う相手とそれ以外の人とでは、Aくんの態度は全く違っていました。僕自身の人を見る目が極めて甘いことを思い知らされました。

 忙しい上司はゴマすりの部下には絶対に勝てません。「王様は裸だ」と直言してくれる部下を近くに置かなければ道を誤ります。

 太宗が三鏡の話を出した時のエピソードを紹介しましょう。大唐世界帝国を実質的につくったのは李世民ですが、初代皇帝には父の李淵が就きました。李淵には建成という長男がいました。李淵は皇太子になった建成に魏徴という賢い部下をつけます。魏徴は建成に会う度に、「あなたの弟の世民は能力も野望もケタ外れだから早く殺しなさい。そうしなければ、あなたが殺されますよ」と言い続けました。建成がグズグズしているうちに、魏徴の言葉通り、世民に殺されてしまいます。有名な「玄武門の変」ですね。

 世民は魏徴を犯罪人として呼び出しました。「兄貴にオレを殺せと言い続けたのはお前か」と問うと、魏徴は毅然として「そうです。あなたのお兄さんがもっと賢く、あなたを早く殺していれば、私はこのように罪人にならなくて済んだのに」と答えました。それを聞いた世民は魏徴に「これ以降、終生、オレのそばを離れるな。そしてオレの悪口を言い続けてくれ」と頼んだのです。世民は2代皇帝に即位して、太宗となりました。

 魏徴が早くして亡くなった時、太宗は大いに嘆き、「私はいちばん大事な鏡を失ってしまった。もう一生、自分の本当の姿を見ることはできない」と嘆いて三鏡の話をしたのです。それが貞観政要に記されています。

自分のことをボロクソに言う人を近くに置く

 以上がリーダーが持つべき心構えです。この3つの中では、「自分のことをボロクソに言う人を近くに置いておく」というのが一番重要であり、一番難しいことだと思います。最初のうちはいいのですが、3、4年たつと、リーダーも苦言を呈する人間が疎ましくなり、遠ざけるようになりがちだからです。これは人間の性であり、誰にでも訪れる問題です。

 直言する方もたった1人で親分の問題点を見つけて指摘し続けるというのはしんどいものです。最初は頑張って直言していたとしても、親分から疎ましがられることが重なれば、だんだんと気持ちが萎えてきます。

 となれば、リーダーは集団で鏡となる人間を抱えておくことが重要でしょう。当番のように、順に直言してもらうような体制を取る。そのような工夫を施すことを考えてみる必要があります。

 リーダーの立場にある人は、以上の心構えをぜひ覚えておいてほしいと思います。

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