中国の名君に学ぶリーダーの心構え

 最後に、リーダーが持つべき心構えを紹介しましょう。これは唐の時代に編纂された太宗の言行録「貞観政要」に書かれている話です。中国史上、最高の名君の1人といわれる太宗は「リーダーたる者は、『三つの鏡』を持つべきだ」と指摘しました。三つの鏡とは何でしょうか。

 第1は銅鏡。つまり自分の顔や姿を見るための普通の鏡です。太宗は「リーダーはいつも元気で明るく楽しそうな顔をしていないといけない」と説いています。そのために鏡で自分の顔を確認すべきだというのです。

 僕がある銀行の講演に呼ばれた時のことです。若い行員たちは口々に「昇進試験なんて受けたくない」「昇格したくない」と言っていました。なぜかと聞くと、「自分たちの上司は年中、グチを言っている。役員からは詰められ、下の行員からは突き上げられて管理職は苦しい立場だという話を聞き過ぎて、少しぐらい給与が上がるとしても、昇進したくなくなってしまった」というのです。

 こんなリーダーのいる職場では部下の士気が上がるはずはありませんね。リーダーは常に元気で明るく楽しそうな顔をしていること。「昇進すると自分たちの知らないおいしいことが山ほどあるようだ。なぜなら、いつもあれほど楽しそうにしているのだから」と部下に思い込ませるぐらいでなければ上司になる資格はありません。「ちょっとまずいぞ」「もしかしたら今、暗い顔をしているかな」と思う時には、ぜひトイレに駆け込んで鏡を見てみてください。職場に戻る時までに元気で明るく、楽しそうな表情をつくることがリーダーにとってはとても大事です。

 第2の鏡は歴史です。将来何が起きるかは誰にもわかりません。しかし悲しいことに人間は歴史を教材とするほかはないのです。東日本大震災やリーマンショックなど想像を超える事態は次々に降りかかってきます。そういうことが起きた時、過去の出来事を学んだグループと、「もう2度と起きることはないだろう」と学ばなかったグループとでは、どちらがうまく対応できるか、差は歴然としています。

 ドイツの宰相ビスマルクは「賢者は歴史に学び愚者は経験に学ぶ」という言葉を残しています。これは時間軸のことを言っているのだと僕は思います。

 つまり、人間が経験できることは仕事を始めてからせいぜい30年ぐらいのもの。その間に大地震や大不況は起きないかもしれません。起きなければ学ぶことができません。けれど、歴史は何百年でも何千年でもさかのぼって学ぶことができます。自身の経験で学べる時間軸はあまりにも短い。だからこそ、それを補うために過去に起きた出来事(歴史)を学ぶことが重要になるのです。歴史を勉強してこそ、様々なケースを知ることができるのです。

上司はゴマすりの部下には絶対勝てない

 太宗が持つべきと指摘した第3の鏡は人間です。それも自分のことをぼろくそに言ってくれる人、「あなたは間違っている」と直言したり、苦言を呈してくれる人を身近に置くことです。

 僕自身にも苦い経験があります。ある時、酒の席で直属の部下に対して、隣の部門にいるAという社員のことを「彼は見どころがある。僕が仕事を頼むといつも走ってくる」と褒めたことがあります。すると、その部下は「出口さんはなんでそんなにアホなんですか」と返してきました。「A君が走ってくるのは出口さんが偉くなると予想して、出口さんに気に入られたいからですよ。A君ほどゴマすりのうまい人はいません」と言うのです。

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