大人にとっての勉強とは「人、本、旅」

 大人にとっての勉強とは何か。僕は「人、本、旅」だと考えています。たくさん人に会い、たくさん本を読み、たくさん現場に行くこと。といっても、人間はナマケモノですから決して勉強が好きではありません。この3つの中で、いちばん勉強のイメージに近いのは難しい本を読むことだと思いますが、なかなか実行できないという人も多いことでしょう。

 「今日は早く家に帰ってトマ・ピケティの本を読むぞ」と決めていたとします。そこへ夕方5時ぐらいに友人から電話がかかってきて、「めちゃくちゃ安くてうまい飲み屋を見つけたから新橋へ行かないか」と誘われたら、どうしますか。僕だったら心の中で「ピケティ先生、ごめんなさい。明日は必ず勉強しますから」と言って喜びいさんで新橋へ行くでしょう。人間はその程度の動物です。勉強を心がけることは重要ですが、勉強をすることはそれほど簡単ではありません。

社外取締役には30年の経験に基づく知見がある

 だからこそ、ダイバーシティーが意味を持つのです。

 ある会社にボードメンバーが20人いたとします。20人の一人ひとりを見れば、慶応大学卒、早稲田大学卒など知恵も知識も豊富な優秀な人ばかりが集まっているかもしれません。けれども大体が50歳~60歳の生え抜きのおじさんばかりです。かつての部長と課長が、社長と専務になっているような関係がほとんどです。これに対してグローバル企業はボードメンバーのほとんどが社外ですから、日本に比べれば若者も女性も外国人もたくさんいる。

 同じような環境の中で過ごした同じような属性の人ばかりでは、読んだ本も会った人も行った場所もオーバーラップしてしまいます。こういう環境では、ラーメン、ニンジン、ムール貝を組み合わせてみようという斬新な発想は生まれにくい。そこに外国人がいたり、女性や若者がいてこそ、ベジソバが生まれるのだと思います。多様なバックグラウンドを持つ人が集まった方が、多様な勉強ができ、多様な知恵が出るのです。

 社外役員の重要性を指摘されると、「1カ月に1~2回、1~2時間議論するだけで何ができるのか」と主張する人がいます。こういう人にはぜひピカソのエピソードを紹介したいと思います。

 晩年、ピカソが南フランスの海岸を散歩していた時のこと。1人の女性に会いました。その女性は持っていたハンカチを出してピカソにサインを求めました。サインを書いたピカソが「このハンカチは1万ドルで売れますよ」と話すと、女性は「たった10秒手を動かしただけなのに?」と驚きます。するとピカソはこう答えます。「違います。40年と10秒です」。

 社外役員がその会社の経営について議論するのは月に1時間、2時間のことかもしれません。けれど、そこで出す意見の背景には、その人の20年、30年に及ぶ体験があり、ダイバーシティーにあふれた知見があるのです。

 いかにして競争力を向上させるかを考える時には、人とはちがうことを考える。そのためには人・本・旅で勉強するしかない、1人で勉強することは難しいのでダイバーシティを活用するという3点を押さえてほしいと思います。