5月末の経営者討論科目の授業ではライフネット生命保険の出口治明代表取締役会長が登壇。「働き方とリーダーシップ」というテーマで講義を行った。
出口会長は慶応ビジネス・スクールで経営を学ぶ人々を、「周囲の世界を自ら経営して少しでも良くしようという『世界経営計画』を持つ人たち」と表現。より良い経営計画を立てるためには、世界の現状を、いかに的確に把握するかが重要だと指摘した。だが一方で、人間は「見たいものしか見ない」「見たいように世界を変換してしまう」習性がある生き物であると指摘し、正しく現状を理解するための具体的な方法論を紹介した。

ライフネット生命保険代表取締役会長
1948年三重県生まれ。京都大学を卒業後、1972年に日本生命保険に入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て、同社を退職。2006年にネットライフ企画設立、代表取締役社長に就任。2008年にライフネット生命保険に社名を変更、生命保険業免許を取得。2016年6月より現職。 主な著書に『生命保険入門 新版』『直球勝負の会社』『生命保険とのつき合い方』『日本の未来を考えよう』『働く君に伝えたい「お金」の教養』『「全世界史」講義Ⅰ』『「全世界史」講義Ⅱ』『「働き方」の教科書』など。
(写真=陶山 勉、以下同)
働くこととは、「世界経営計画」の一部を担うこと
みなさん、こんにちは。今日は「働き方とリーダーシップ」というテーマで話をします。
この慶応ビジネス・スクールで経営について学んでいる皆さんは、いずれは職場や地域などで将来の経営を担う方たちです。人間はどんなに恵まれた職場であれ、現状に100%満足している人はおそらくどこにもいないでしょう。人間には向上心が備わっており、どこかを変えたい、良くしたいという思いを持っている。
つまり、皆さんは周囲の世界を少しでも良くしたいという「世界経営計画」を持っているのです。
世界のメインシステムを担っているのは神さまです。神さまは、世界を思うがままに瞬時に変えることができるからです。しかし、残念ながら神ならぬ身の人間にはそういうことはできません。今の自分が置かれた環境、今のポジションでどこをどう変えれば周囲の世界が多少なりとも良くなるのか、自分はその中でどの部分を担うのがいいのかということを常に考えていく必要があります。即ち人が生きること、働くこととは、世界経営計画のサブシステムを担うということなのです。
森の姿を正しくとらえなくては、1本の木も植えられない
世界経営計画のサブシステムを担う人間が、周囲の世界を少しでも良くしようと思うならば、まず現状をきちんと認識することから始めることが必要です。森の姿(世界の姿)を正しくとらえることができなければ、1本の木すら植えることはできないからです。
ところが、人間は「見たいものしか見ない」、あるいは「見たいように都合よく現実の世界を変換してしまう」習性を持つ動物です。カエサル(古代共和制ローマ末期の軍人・政治家)も「人は現実のすべてが見えるわけではなく、多くの人は見たいと思う現実しか見ない」と指摘しています。
このような脳のクセを考えると、世界の現状をきちんと見るためには、方法論が必要です。まずは、その方法論から説明していきましょう。
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