慶応義塾大学大学院経営管理研究科(慶応ビジネス・スクール)が次世代の経営の担い手を育成すべく、エグゼクティブ向けに開設する「Executive MBA」。5月の経営者討論科目に登壇したビザ・ワールドワイド・ジャパンの岡本和彦元会長は松下電器産業(現パナソニック)で社会人としてのスタートを切り、その後、複数の外資系企業の経営者を務めた。自らが見聞きした経験から「“松下幸之助イズム”はどこまで通用したか」をひとつの切り口で講義を行った。
講義の後半では受講者との間で質疑応答が繰り広げられた。クレジットカード会社での経験豊富な岡本氏に対し、日本におけるカードビジネスの行方や有望な決済手段などについて質問が投げかけられた。
(取材・構成:小林佳代)

ビザ・ワールドワイド・ジャパン 元会長
1970年慶応義塾大学法学部卒業。同年松下電器産業(現パナソニック)に入社。アジア、中東、アフリカ、欧州、南北米でのマーケティング及び電卓・キャッシュレジスターの営業部門を担当。1984年米国スタンフォード大学ビジネススクールでMBA(経営学修士)を取得。その後、バング・アンド・オルフセン・ジャパンで代表取締役社長兼CEOを務め、アメリカン・エキスプレス・インターナショナルなどを経て、2006年8月ビザ・インターナショナル入社。日本次席代表に就任。2008年12月同社代表取締役社長。2010年9月よりサイバーソース代表取締役を兼任。2015年9月ビザ・ワールドワイド・ジャパン会長。2017年1月、GMOペイメントゲートウェイ顧問。同年6月同社社外監査役。 (写真:陶山勉)
カード決済を押さえれば、キャッシュフローを把握できる
受講者:先ほど、地方銀行など金融機関が決済事業に着目すると、カード会社にとっては脅威になり得るというお話がありました。ビザのビジネスはカード会社と加盟店をつなぐプラットフォームを提供するものと理解しています。プラットフォームを持っていない銀行がなぜ脅威になり得るのか、その辺りをあらためてご説明いただければと思います。
岡本:銀行が決済機能を持つとなぜ強いのか、あらためてご説明します。
ご存じの通り、クレジットカードで会計を済ませた顧客がいたら、カードの加盟店はその売上高の数%を手数料としてカード会社(この加盟店契約をもっているカード会社をAcquirer=アクワイアラという)に支払わなくてはなりません。そのカード会社は加盟店への支払いの手続きを行う銀行に対して、1件約250円の振り込み手数料を払う必要が生じます。
月々何億円、何千万円という売り上げがある加盟店ならば1件250円のコストなどAcquirerにとって痛くもかゆくもないかもしれません。しかし規模が小さい店だったらどうでしょう。例えばカード払いがあまり進んでいない地方の小さい加盟店では1週間のカードでの売上高が1万円ほどという店がまだあります。通常2週間おきに加盟店へはカード会社から支払いが行われます。250円の手数料を支払えばそれだけで1%以上がなくなってしまいます。ところが、加盟店との契約をもっているのがそもそも、カード会社でなく加盟店が口座をおいている銀行となれば、自行への振り込みになり、250円の振り込み手数料は不要になります。
その上、銀行が加盟店業務(前出のAcquirer)をやりますと契約した加盟店の日々のカード売上が見えるようになります。今後ますますカードの売り上げは比重が増えてゆく中でその加盟店(銀行にとっては取引事業会社)の日々の売り上げが見えてきます。今は新規の事業会社の信用レベルを判断するためには「決算書類を持ってきてください」「昨年の税務申告書類を持ってきてください」とやるしかない。
ただ、これらの書類はあくまでもスタティックな(静的な)データ。場合によっては1年半ぐらい前の業績を見ることとなり、現状の財務状況は全く異なるかもしれません。しかし、カード決済を押さえて今のキャッシュフローをガラス張りで確認できれば、より正確に現状を把握できます。銀行が決済に入ると有利だと考えるのは、例えばこうしたことからです。
現在、ビザのプラットフォームは、クレジットカード会社(Acquirer)と他のカード会社とをつなぐネットワークの役割を果たしています。しかし、このプラットフォームはカード会社でなく銀行ともつなぐことができます。現に、日本でも大手銀行や地方銀行の十数社がデビットカード発行のためにネットワークにつないでいます。これをカード発行業務だけでなく加盟店業務で使うこともできるわけです。
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