「暖簾(のれん)というのは信用です。長い年月、きちんとした仕事をし続けることで出来上がります」 (写真:陶山勉)

松下がGEより早く発明した「事業部制」

 松下の経営の仕組みで、優れていたと思うのが事業部制です。

 94歳まで生きた松下幸之助ですが、実は身体があまり丈夫ではありませんでした。若い頃には大病をしたこともあります。松下の事業がどんどん拡大していく中、すべてを自分で見ることはできないと判断し、事業分野別に担当を決めて全面的に任せるようにしたのが事業部制の始まりです。

 事業部制は英語で言うと「Division System」。Division Systemを始めたのは米ゼネラルエレクトリック(GE)と言われていますが、実はそれよりずっと早く大正時代の終わり、もしくは昭和初期に松下が既に導入しています。

 事業部制の特徴はなんといっても独立採算制になっていることです。事業部の規模は数百人から数千人。傘下に経理、人事、製造、技術、営業部門などを抱え、事業部長がそれらすべての責任を負います。事業部長は言ってみれば中小企業経営者のようなものですから、事業部制は経営者を育てるのにすごくいい制度だったと思います。松下には一番多い時で60~70事業部、関連会社を入れると100事業部ぐらいあったと思います。

「自分の金」の感覚でコスト管理を徹底

 よく覚えているのは、私が30歳前後だった時の事業部長です。河内弁をまくしたてるおっかないおじさんで、中小企業のオヤジのようなふるまいが徹底していました。

 ある日、私が残業をしていた時のことです。少し離れたところで購買部門、それからまた少し離れたところで営業部門、総務部門の社員も残業をしていました。夜6時ごろ、帰ろうとした事業部長が事業部内を見回り、残業をしている社員に「みんなちょっとこっちに来い」と声をかけました。「何を言われるのだろう、また怒られるのかな」とドキドキしながら行ってみると、「みんな集まってここで仕事をしろ」と言うんです。あっちもこっちも電気がついているのにパラパラとしか人がいないのはもったいない、1カ所に集まればそこだけ電気をつければ済むという発想です。

 また別の日のこと。トイレの個室に入っていると、後から入ってきた人が用を足した後、電気を消して出て行ってしまいました。「すみません~」と声を上げると電気を消したのは事業部長で、「おう、すまん、すまん」とまたつけてくれました。誰もいないトイレに電気がついているのはもったいないと思って消そうとしたわけです。

 これらはまさに中小企業経営者のマインドです。照明代、空調代、水道代など、会社のコストを「自分の金」の感覚で管理し、ムダと感じたものはすぐに改善するように対処していました。経営に携わる者がこういうマインドを持つことは非常に重要だと思います。