松下幸之助の「社員稼業」の教えを胸に

パナソニック・グループの創業者、松下幸之助(1894年~1989年) (1987年4月撮影、写真:Fujifotos/アフロ)

 松下幸之助が残した言葉の中で私が一番好きなのは「社員稼業」です。松下では当然のように使われている言葉で、私は入社式で聞きました。以来、常に心に留めています。

 社員稼業とは、自分の職務について自分が「社長」であるとの自覚を持って創意工夫し、上司や同僚、後輩など周囲の人々も“お得意さん”と見なして意見を聞き、自分なりに仕事を楽しみ、高めていく心構えを指します。つまり社員一人ひとりが暖簾(のれん)を背負う商店経営者のような意識で、仕事に向かい合うべきであるということです。

 暖簾というのは信用です。長い年月、きちんとした仕事をし続けることで出来上がります。自分に対する信用も同じように長い年月、積み重ねて築いていくものです。信用が出来上がれば「アイツが言うなら大丈夫だろう」「アイツが言うならやらせてみよう」と任せてもらえるようになります。社員稼業とは一人ひとりの社員がそういう精神で仕事に取り組むことが必要だという教えであり、私自身、常にそれを実行してきたつもりです。

心に深く残った「水道哲学」

 もう1つ、松下の経営理念として有名な「水道哲学」も心に残っています。

 ある時、幸之助は通りがかりのホームレスがある家の庭先の水道の蛇口をひねって水を飲んでいる姿を目撃します。本来、自分の家のものが勝手に盗まれたのですからその家の人はとがめ立てしてもおかしくありません。しかし、実際には水道の水の代金は大した額ではないため、家主が怒ることはありませんでした。また、飲んだホームレスも水のクオリティーを何ら心配することなく口にしていました。

 このように質の高いものが安価に豊富に供給されれば消費者は安心して手に入れられます。メーカーとして質の高いものを安価に豊富に供給し、豊かな社会をつくろうというのが幸之助の説いた水道哲学の思想です。

 一方、企業ですから、いくら安価にとはいっても利益はあげなくてはいけません。幸之助は「10%の利益確保が必要」という経営目標を掲げていました。いい商品、いいサービスを提供し続けるためには、利益は出さなくてはいけないと説いたのです。

 こうした松下幸之助の教えは後に企業人としての、また経営者としての、私の発想や行動に大きな影響を与え続けてきたと感じています。