「身を引く」ことがリーダーの最高の見識

受講者:ピーター・ドラッカーはCEOの仕事の1つに「次のトップを育成する」という項目を入れていました。けれど、特にカリスマと呼ばれるような経営者の場合、次のトップを育成するというのは非常に難しいのではないかと思います。例えば、ソフトバンク、日本電産、ファーストリテイリングなど、どこも後継者の問題には苦労しているように見受けられます。うまくいった実例がもしあれば、教えていただきたいです。

山根:後継者を育成したカリスマ経営者の代表は本田宗一郎と盛田昭夫でしょうね。本田さんには藤沢武夫という番頭格がいたからというのもあるけれど、2代目社長の河島喜好、3代目社長の久米是志もちゃんと育てました。

 久米さんはCVCCエンジンを開発したエンジニア。水冷エンジンを採用するか、空冷エンジンを採用するかで本田さんと激しく対立し、会社に1カ月出てこなかったというエピソードのある人です。でも本田さんはそういう人を後継者に指名している。

 さらに本田さんが立派なのは、きちんと身を引いたことです。若い社員からしたら、本田さんというカリスマが社内にいたら、その下にいるリーダーのことなどまともに⾒ようとしない。カリスマの方が輝いているし、「あの人たちが意思決定するんだ」と思えば、リーダーに対する尊敬の念もわきません。

 盛田さんも同じです。後継者に指名したのは大賀典雄という鼻っ柱の強い男。記者会見の席で、「盛田さん、それ違うんじゃないですか」なんて平然と言ってのけるようなタイプの人物です。そして、やはり自身は身を引きました。身を引くというのは最高の見識です。多くのカリスマにはそれをするのが難しいんです。