大企業を踏み台に事業をクリエートする

受講者:プロ経営者には幾つかのタイプがあると思います。創業者のプロ経営者もいれば、雇われ社長のプロ経営者もいます。雇われ社長の場合はどうしても創業家や株主、ファンドの意向を忖度し、短期で結果を出さなくてはいけないところがあります。ある種の制約条件を抱えた中で頑張らざるを得ない。それはそれですごいことだと思いますが、本当に自分の夢を貫き、やりたいことをガンガン追求していくことができる創業者には、雇われ社長にはない強み、凄みがあるように感じます。その辺り、山根先生はどう感じていらっしゃるのかをお聞きしたいです。

山根:今のご指摘には共感するところが多いですね。コンサルタントをやっていた時に、どちらのタイプの社長にも会いましたが、やはり迫力があって面白いのは創業者でした。リスクを賭けてのし上がってきたという気迫が前面に出ています。勝ち抜いてきた人っていうのは本当にすごい。

 でも、中には大企業を踏み台にして事業をクリエートして、起業家のように活躍する経営者もいます。大企業に使われるのではなく、逆に大企業を使ってしまう。「この会社の経営資源を使って面白いことしよう」「この会社を儲けさせてやろう」という具合です。アントレプレナーでなく、イントレプレナーですね。こういう人たちも魅力的な人はたくさんいます。大企業に勤めている方も、そういう意気込みで面白い仕事をどんどんしていったらいいと思います。

 特に、子会社の社長をやるのはすごく勉強になると思いますから、ぜひ皆さんに挑戦してほしいですね。失敗したっていいんですよ。大企業は耐性能力が高いですから。ちょっと実験してみて、「ダメだった」ということもありますが、こうして実験することが成長につながると思います。

受講者:経営者はサイエンス、アート、クラフトの能力が適度にブレンドしていることが必要というお話でした。それ以前に備えておくべき人としての素養があったら教えてください。

山根:一般教養って大事だなとすごく思います。本田宗一郎は「人間が経験したことや勉強したことでムダなものは1つもない」という言葉を残していますが、本当にその通りですね。

 ビジネスパーソンってみんな忙しいから30歳を過ぎると音楽を聴きに行ったり舞台を見に行ったり小説を読んだりしなくなってしまいます。実際、30歳を過ぎた消費者のエンターテインメントへの消費額ってパタッと止まるらしいです。でも、これって後からボディーブローのように効いてくると思います。一見、関係ないような分野でも幅広い知見を持っておくことが、後に経営に携わるようになった時にどんどん関係してくるからです。

 日経新聞の「私の履歴書」を読んでも、ビジネスとは関係のない趣味、娯楽、勉強などが後から役に立ったという話はよく出てきますよね。こういう素養ってまさにクリエーティビティにモロに響いてきます。

 実は私は舞台度胸を付けたくて演劇に挑戦しているんです。古典芸能を学びたいと野村万作先生から狂言や能楽を教えていただいていて。もう37年習っています。そうすると、そこから経営のヒントが得られることがよくあります。

 例えば、能楽では親が子供に芸を教えると世代が近すぎてケンカになるから、祖父が孫に教えるルールなのだそうです。長く続く古典芸能の知恵ですよね。ある程度、芸がこなせるようになったら親が指導するというやり方だそうです。この仕組みを聞いた時には、「企業の人事にも生かせるな」と思いました。