慶応義塾大学大学院経営管理研究科(慶応ビジネス・スクール)が次世代の経営の担い手を育成すべく、エグゼクティブ向けに開設する「Executive MBA」。4月の授業に登壇したアドバンテッジパートナーズの笹沼泰助代表パートナーは「企業価値を作り込む」をテーマに講義を進めた。
企業価値向上のケースとして「メガネスーパー」と「ザクティ」を紹介する。ファッショナブルなメガネを割安の「3プライス」で販売する格安メガネ店に押され停滞していた老舗メガネ店チェーンと、デジタルカメラ市場の縮小で苦戦が続いていたODM(相手先ブランドによる設計・生産)メーカー。苦境の中、それぞれの強みを生かしながら戦略を練り直し、再度、成長軌道に乗せるまでの道筋を振り返った。
(取材・構成:小林 佳代)

アドバンテッジパートナーズ代表パートナー
1953年生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、積水化学工業を経て慶応義塾大学大学院経営管理研究科を修了。米系戦略コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーに在籍した後、ハーバード大学政治行政大学院(ケネディスクール)を修了。米系戦略コンサルティング会社モニターカンパニーに勤務。1992年アドバンテッジパートナーズを創立、共同代表パートナーに就任。現在に至る。(写真:陶山勉、以下同)
格安メガネ店に押されていた「メガネスーパー」
「企業価値を作り込む」というテーマで、次にご紹介するケースは、「メガネスーパー」です。
メガネスーパーは日本で最初にメガネ店をチェーン化した企業です。ところが近年、「眼鏡市場」や「JINS」など、ファッショナブルなメガネをわかりやすく割安な「3プライス」で販売する格安メガネ店が台頭。顧客を奪われ、赤字が続き債務超過に陥っていました。再生アドバイザーからの紹介で、我々アドバンテッジパートナーズが投資を行い経営に参画しました。
アドバンテッジパートナーズは通常、上場企業に投資をする場合、TOB(株式公開買い付け)で会社を非上場化し、思い切った施策を集中的に講じます。ただメガネスーパーの場合は経営状況が悪く、ファンドからの資金は既存株主からの株の買取でなく、全て会社の再生に使う必要性が極めて強かったため、上場を維持したまま増資でマジョリティーを確保し、会社に資金と資本を注入して、ガバナンスを取得するスタイルをとりました。この増資資金に追加投資と市場調達を組み合わせて、事業を再構築。結果として、2016年4月期には9期ぶりに黒字転換し、債務超過も解消されて、これからさらなる発展を遂げようという段階にきています。
レッドオーシャンでの争いを回避
具体的に何をしたのかを説明していきましょう。
メガネスーパーはかつて日本で2位の店舗数を誇るメガネチェーンでした。ただその頃につくった店舗は面積が広すぎて現在の商圏規模や競合状況に合いません。もう少し小規模にする必要があるため相当数の店舗をリロケーション(移転)しました。もともとあった店舗の近くで家賃がより安いところに半分ぐらいのスペースを借り、採算性を改善しました。店舗数はずっと減り続けてきましたが、2016年から再び増加に転じています。
店舗には従来、フクロウのロゴマークを描いた看板を掲げていましたが、目の虹彩(こうさい)を模式化した新しいマークを載せたスッキリとした看板にしました。ただし、一時期店名をローマ字で「megane SUPER」と書いていたところ、読みにくかったのか来店客がますます減ってしまったので、「メガネスーパー」というカタカナに戻しました。
より重要なのは戦略の変更でした。通常の近視、遠視矯正のためのメガネ店チェーンは競争が激化しています。3プライス型のメガネ店を中心に新規参入が続く「レッドオーシャン(競争の激しい既存市場)」。歴史があり、ブランドも浸透したメガネ店チェーンを、JINSや眼鏡市場との争いにも打ち勝つ全く新しいスタイリッシュなチェーンにつくり替えるのは容易ではありません。ターゲットとする顧客を絞り込み、レッドオーシャンでの争いをあきらめることが必要と考えました。
競争が少なくメガネスーパーの独自性が生かせる「ブルーオーシャン」はどこか。狙いを定めたのは「中高年」です。視力矯正に加えて老眼、眼精疲労などの問題も改善し、クオリティー・オブ・ライフを改善したいというニーズを持つ顧客に的を絞り、目的にぴったり合うかけやすいレンズをフレームとレンズが一体となっていた一式価格から切り離して提供することにしました。そのために検査方法を変えました。
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