権限を委譲できるだけの人材を、きちんと育成する

(受講者)私たちの会社は数年前まで、今日の話に出てきた文鎮型のフラットな組織で運営していました。しかし業務の拡大とともにこの数年で社員数が5倍までに膨れ上がってしまいました。
 かつて、ホンダは文鎮型組織で素早く意思決定を下し、リスクを取りながら果敢にチャレンジしていました。それが組織の成長・拡大とともに難しくなったというお話であったと思いましたが、拡大した組織で、文鎮型組織の時代のDNAを残しながら多様な業務を遂行するにはどうすれば良いのでしょうか。

岩田:色々な考え方があるでしょうけれども、私は事業規模の拡大に応じて、決裁の権限を委譲することに尽きるのではないかと思います。トップが真に信頼できる部下の「核」をつくり、その人物にどんどん決裁を任せる。逆に、信頼できないと組織長は報告を求めたがるものだからです。

 こうして権限委譲していくには、権限を委譲できるだけの人材をきちんと育成しておくことも必要です。ホンダでは会社がどんどん大きくなっていくにつれ、決裁できる人材の育成が遅れてしまっていました。また経験の少ないプロジェクトメンバーにも、たくさんの仕事をお願いせざるを得ない状況に追い込んでしまっていました。

 今、振り返れば、ホンダの競争力の源泉がどこにあるのかのコンセンサスがなく、会社としてどんな人材を育成すべきか、その中で機能組織はどんな役割を果すべきか、ということへの認識がやや甘かったのでしょう。

 特に決裁責任者が変わると、決裁の方針や判断基準ががらりと変わってしまいかねませんから、長期的に会社のビジョンや事業戦略を踏まえて決裁ができる人材を育てていくことがとても重要です。成り行きや行き当たりばったりで決裁者を決めてしまえば、その決裁者次第で判断が大きくぶれてしまいますから。

 多くの場合、権限委譲した後、組織としてのフォローがなくなってしまいがちですが、コミュニケーションを取りながら、活動を支援していくことも忘れてはなりません。そのためには組織にも「遊び」が必要だとおもいます。効果効率を追求するあまり、こうした「遊び」の重要性を見逃しては必要なサポートができません。

 その会社のDNA、その会社らしさを残しながら事業規模を拡大していくというのは簡単ではありません。ホンダに関して言えば、モータースポーツの「F1」に代表される「チャレンジ」や「他社とは違う新しいものをつくろうという意気込み」こそが「ホンダらしさ」だったと思います。それが効果、効率を優先する思考の中で失われてしまった。

 もちろん、きちんと儲けがなければ夢に挑戦することも、全く新しいコンセプトの商品開発に取り組むことも難しい。そういう意味では、「儲ける仕事」と「夢のある仕事」を戦略的にどのように事業運営していくかについての議論が足りなかったのかもしれません。組織の成長・拡大に当たっては、この辺りに注意が必要ではないかと思います。