「海外の環境で従業員から提案を引き出し、ボトムアップの気概を持たせることは簡単ではありません。これこそ現地に赴任したリーダーの課題だと思います」
「海外の環境で従業員から提案を引き出し、ボトムアップの気概を持たせることは簡単ではありません。これこそ現地に赴任したリーダーの課題だと思います」

努力した人を適正に評価する仕組みを残す

【ものづくりについて】

(受講者)ものづくりにおいて日本が持つ優位性はどういう点にあると思いますか。
 また、それを守るため、HAMの改革時にどのような対応を心がけましたか。

岩田:個別の企業によって違いがあると思いますが、少なくともホンダに関しては、終身的雇用制度の採用と現場における自由な提案制度が、大きな貢献をしていると思います。

 終身的雇用制度では人材育成が企業の重要な施策の一つです。個人の経験や技術力向上により、会社全体のノウハウ蓄積や技術伝承に貢献することが個々人の生活の安定に繋がるという安心感が、ものづくりへの強い動機付けになっていると思います。そしてその環境が同族意識を生み、現場と技術部門との間に強い絆が生まれ、不断の改善活動を促すことになっていると思います。

 また、ホンダでは特にものづくりの現場に一番近い従業員の皆さんの積極的な提案活動が、ものづくりの質を高めることに大きな貢献をしていると思います。それは学歴を問わず、そうした努力が認められれば、将来のキャリアアップに繋がる人事制度になっているからです。つまり現場の一人一人の意欲を引き出す環境、ボトムアップのものづくりができる環境があり、これがものづくりにおける強さにつながっていると思います。

 もっとも、海外の状況は少し異なります。アメリカでも学卒エンジニアについては基本的な資質も高く、競争原理も働きますので企画・設計段階までのものづくりについては相当レベルが高いと思います。しかし、さきほどお話ししたように、アメリカの一般社会では学卒エンジニアのステイタスが高く、現場のノンエグゼンプトアソシエート(時間給で働き、評価による賃金差がない従業員)が作業標準や図面の改善提案をすることはとても難しいこと、あるいはしてはいけないことと思っているようです。ですから、不具合があっても改善スピードは日本と比べてはるかに遅いというのが実情です。

 さらに、人事処遇が日本とは異なり「同一労働同一賃金」が基本ですから、ものづくりへの前向きな意欲を引き出し、ボトムアップの気概を持たせることは簡単ではありません。これこそ現地に赴任したリーダーの課題と言えると思います。一部の工場長クラスが、定常業務とは別に率先してものづくり提案活動などを組織化して、活性化につなげているという事例が出ています。

 現場に落ちていたボルトを拾って歩く姿がアソシエートのプライドを刺激したように、やはり基本はマネージメントの皆さんが常に関心を持って現場のアソシエートに接することが大切ではないかと思います。

 私は会社として努力した人を適正に評価することができる「仕組みを残すこと」が重要だと考えました。そこでHAMではトレーニングセンターをつくり、メンテナンス担当のアソシエートが持つ技術を評価し、資格認定できるようにしました。そしてその資格と会社に対する貢献度を加味した評価制度の導入に取り組みました。

 とはいえ、この施策の対象者はごく一部のアソシエートに限られています。本来、こうした取り組みを一般のノンエグゼンプトアソシエートにも広げることが必要ですが、それはやはり難しい。そういう意味では、日本と海外ではものづくりの底力には依然として相当な開きがあります。日本企業はこうした強みの源泉をよく理解し、それを十分に生かすべきというのが私の考えです。

(受講者)サプライヤーとの良好な関係構築はホンダを始め、日本のものづくりの強みにもなってきたと思います。
 米国でタカタ製エアバッグの欠陥が非常に大きな問題になりましたが、海外でホンダはサプライヤーとはどのような協業体制を取っているのでしょうか。

岩田:サプライヤーとの連携は日本でも海外でも全く同じ体制で行っています。多くのサプライヤーには研究開発の段階から参画してもらい、一緒に品質・コスト・納期(QCD)の目標を決めて進めていくというやり方が一般的です。

 特に関係の深い会社については、購買の担当チームが「良いものを出荷できる体質にあるか」ということを定期的に確認するキャラバンを行っています。そのキャラバンで問題点を指摘し、改善を促しています。サプライヤーは「安定した製品の出荷責任」や「継続的なビジネスの維持」のために良い生産体質づくりに責任を持って取り組んでいただいています。

 タカタについては高機能部品ということで、基本的には設計から製造まで、製品の機能・性能を保証していただくということで納入をしていただいていたと聞いています。今回の問題が発生した以降に、実際の製造プロセスの問題点などを話し合う機会がありましたが、この件は現在進行形で進んでいる懸案事項でありますのでここでは具体的なお話は差し控えさせて頂きます。いずれにしてもキャラバンの有無にかかわらず、両者の信頼関係を基本とした誠実な物づくりへの取り組み姿勢を大切にした関係を築いていると考えています。

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