最も大切なのは、基本理念を共有すること

(受講者)岩田さんはCEO(最高経営責任者)として人事面も含め、ホンダ・オブ・アメリカ・マニュファクチャリング(HAM)で大胆な改革を実行してきましたが、それは本社と協調して行ったのでしょうか、独断で行ったのでしょうか。どのように動きましたか。

岩田:私が今回の人・組織の活性化のためにやった施策の中で、本社の経営会議に提案し承認を必要としたのは1度だけです。それは北米統括本社のHNA(ホンダ・ノースアメリカ)を設立した時です。これは本社の経営会議での承認が必要という要件に該当したからです。また、生産現地法人の社長にローカルアソシエートを抜擢する際には、公式な承認ではないものの、北米本部長とホンダ社長の事前了解を取りました。

 それ以外のことは、北米の生産責任者、およびHAMのCEOの裁量の範囲内のことでしたので、私と北米本部長の2人で相談しながらやりました。

 私が北米でローカルアソシエートを社長にしたというのは、先ほどの質問にも出た、「グローバルホンダはどうあるべきか」という命題に対する1つのメッセージのつもりでした。「これから北米はローカルアソシエートが、マネージメントを担う体制にしていきますよ」と。なかなか重い決断ではありました。

(受講者)精密機械メーカーに勤めています。私の会社もグローバル化へのチャレンジを続け、海外から拠点長や本社の事業部長を招き、採用し始めています。
 ただ、ローカルのスタッフを登用するというより、全く関係のない他社から採用したケースが多いためか、KPI(業績評価指標)達成に向けて独自の手法を活用するなど、文化や価値観の違いを目の当たりにしています。正直、違和感を覚える機会も増えています。
 ホンダの場合はどうだったのでしょうか。また、我が社のように生え抜きではない、外部から採用した人材を登用する際、企業文化の継承・発展はどのように実現していくべきなのか。岩田さんはどうお考えでしょうか。

岩田:ホンダは会社の歴史がまだ浅く、中途採用で異質な血をどんどん入れながら成長してきた会社ですから、あまり生え抜き人材にこだわる意識は強くない会社だと思います。

 しかし、そうしたホンダでも、途中入社のローカル幹部の登用では多くの失敗事例があります。個人差もありましたが、大きな原因はホンダが何を大切にした経営を目指しているかの基本概念を、理解できていないことでした。

 大切なことは、「会社として大切にしたいものは何か」という基本理念を共有することです。理念の共有が不可欠です。外部から入ってきた人は、新しい職場で早く成果を示したいものですから、とかく結果にこだわる傾向があります。必要以上に組織を変え、コストを削り利益を出そうとして、現場の社員から「外から来たリーダーはダメだ」と反感を買ってしまうという事態も起きがちです。ただし場合によっては、経営者はあえてそう言う人材を、劇薬として採用するケースもあります。

 そうした場合でも、最初の段階できちんとコミュニケーションを取り、会社として大切にしている方針、哲学、考え方などを議論し尽くすことが欠かせません。特に外部から招いた人材には、こういうステップをきちんと踏まえてやってもらうことが重要ではないかと思います。

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