経営者は短期の結果だけで判断されるべきでない

 よく「経営者は結果だけで判断される」と言います。私は結果だけて判断されるならば、こんなに楽なことはないと思います。短期的に成果を上げるだけならば、なんでもできますから。

 経営者は決して結果だけで判断されてはいけないと思います。経営者には様々なステークホルダーに対する責任があります。従業員、従業員の家族、地域、取引先、みんなに対してです。それはつまり、会社の永続性に対しても責任があるということです。

 それらの責任を忘れて結果だけを求めるということは、あってはならないと私は思います。

 当時はHAMや他の北米生産現法も同様に、現場は製造業の基本である5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)をあえて強調せざるを得ないほど疲弊していました。これはリーマンショックの影響だけではなく、日本のホンダの企業文化の変質が大きく影響していたと考えています。短期の効果効率を優先しすぎるあまり、結果管理に走り、生産工場としてあるべき本来の物づくりプロセスをないがしろにしてきた結果だと思います。

 私は製造業においては良い体質をつくることが最優先であると確信をしています。そのベースになる良い体質、物づくりプロセスができて初めて意味のあるコスト改革が実行できると思います。

 実際にHAMで第一ステップとして始めたプロセスの「見える化」の導入だけでも随所にあった無駄、ロスが顕在化し、大きなコストダウン成果を上げることができました。これにより自信をもって第2ステップの本格的な体質改革へ踏み出すことができるようになりました。製造業として、どんなに厳しい状況下でも「健全な体質の中にしか意味のあるコスト、物づくり品質はない」ことを改めて再確認したのです。

北米で掲げた夢の実現は、次世代のリーダーに託す

 こうした物づくりプロセスの原点に立ち帰りながら、ローカルアソシエートが仕事の主体性を取り戻すことができるように、チャレンジテーマとして取り組んだアコードチームには、企画のスタート時点で業務への取り組み姿勢の変更をお願いしました。

 それはまず、自分たちの「夢」「ありたい姿」を全員で確認、共有し、その実現のために妥協をしないで現実を変えていこうとする進め方です。まさに本田さんがかつて身をもって教えていたことの実践を促したのです。

 この取り組みによって従来の「日本で決めたことだから」とか、「現状は変えられないから」といった受け身の姿勢が大きく変わりました。自分たちで決めたことだから現状を改善してでもやり切ろうとする強い決意がみなぎっていました。

 その結果、途中で東日本大震災の影響で開発の遅れがありながら、いつも大混乱する量産立ち上がりで、従来の10分の1、わずか2週間で目標の安定生産を達成するという素晴らしい成果をあげたのです。

 量産開始のセレモニーがなければ、いつ新しいアコードの生産が始まったのかが分からないほどでした。そしてアコードの量産式典でアソシエート自ら、会場の至るところに「PRIDE」と書いたポスターを掲げているのを見た時に、私は改めて彼らのこのプロジェクトに注いできた情熱、使命感に感動し、全員が一丸となって「夢」に立ち向かうことの意義、そしてホンダフィロソフィーのエッセンスがそこに息づいていることを実感しました。

 「ありたい姿」を共有し、リスペクトの心を持ってアソシエートに権限委譲する。あとは経営陣とマネージメントチームが、仕事のしやすい環境作りをサポートすれば、彼らは必ず応えてくれます。これは万国に通用するマネジメントの基本だと改めて痛感しました。

 私がHAMにいた5年間で、北米をグローバルマザーにするための布石は打てたと思っています。日本国内の生産が空洞化する中で、生産現場がないのにいつまでも日本がマザーの役割を担っていくのは無理があります。

 ホンダが真のグローバル企業へと進化を果たすには、世界のそれぞれの地域が求められる役割を果たし、相互信頼の上に立って補完できる体制に移行していくことが必要ではないかと思います。

 北米で掲げた夢の実現は、次世代のリーダーとチームに託すことになりました。しかし古い体質の殻を破り、プライドを取り戻したアソシエートの情熱が必ず北米全体をも牽引してくれるものと私は確信しています。

 北米ホンダの「ありたい姿」は何なのか、そしてその中でHAMはどんな会社を目指すのか、どんな会社でありたいのか、全員がワクワクするような夢を掲げて次の世代のホンダをつくりあげてほしいと願っています。