「NSX」の量産を北米に誘致する目標を掲げる

 アソシエートのチャレンジを促すために経営トップが最初にやるべきは、ビジョンを掲げることです。私は夢のある高い目標として、「北米で生産するグローバル機種については北米工場が世界のグローバルマザーになる」というビジョンを発信しました。

 そして2012年に販売が開始される「‘13モデル アコード」の量産計画をローカルアソシエート主導でやり切ること、さらにホンダのフラッグシップカーである「NSX」の量産を北米に誘致することを目標に掲げました。

 これらを実現するためには、現場の体質を強化しなくてはなりません。リーマンショック以前は販売が好調だったため、日々の生産台数の結果だけに管理が集中しがちで、生産プロセスに潜んでいた慢性的な課題を見逃していました。その結果、生産工程の随所に無駄な工程、無駄な要員を抱え大きなコストアップ要因になっていました。

 こうした反省から、工場の運営方針を「結果管理」から「プロセス管理」に変えました。この方針を日常業務の中で徹底するために、「見える化」や「5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)」の徹底など基本に忠実なものづくりを進めてほしいというメッセージを発信し、現場のアソシエートが進むべき方向性を明確にしました。

熱意あるアソシエートに報いたい

 心がけたことは、単に夢やビジョンの発信だけではなく、その実現のために組織の“色々な立場”のアソシエートに「今、何を重点に行動してほしいか」「夢を実現するためのマイルストーンは何か」ということを同時に発信したことです。

 個の活性化の面では、事業規模の停滞の中で閉塞感のあった人事の活性化に着手しました。まず日本人に独占されてきた生産現地法人の社長のポジションに、実力のあるローカルアソシエートを登用し、ローカルアソシエートにキャリアのステップアップの機会を拡大することから始めました。

 2012年には、アラバマの生産現法社長にローカルアソシエートを登用し、翌年には他の3生産現法や研究所の社長にローカルアソシエートが登用されました。

 また並行して、北米の現地法人間で人事交流も進めました。意欲があり、優秀な人材には活躍の場を各現地法人の枠にとどまらず、北米ホンダという大きな枠の中でキャリアを積むことを可能な体制にしたのです。

 同じポジションに管理職が5年を超えてとどまることがないようなルールもつくりました。これによって、組織の閉鎖性が原因で起こる利害の対立や人事の停滞感が解消され、現場の体質改善が大きく進みました。

 「熱意あるアソシエートに報いたい」「良いアソシエートに残ってほしい」という思いで本格的なトレーニングセンターも設立しました。現場を回ってみると、会社の歴史の長いHAMでさえも、近代的な生産ラインに欠かせない設備のメンテナンスを担当するサービスエンジニアの平均勤続年数が、わずか5年から6年でした。

 一方、設立以来の歴史の浅いアラバマ工場では2年から3年といった状況にあったのです。経験や技術力に違いがあっても報酬で報いられないノンエグゼンプトアソシエートは、技術を習得後、より給料が高い会社にどんどん転職していたのです。

 そんな状況の中で現場は慢性的なサービスエンジニアの不足に陥っていました。生産活動の安定化と、サービスエンジニアの人材育成が、まさに急務でした。このセンターでトレーニングを受けたアソシエートにはホンダの社内資格を認定し、その資格と実績によってノンエグゼンプトアソシエートにも給与差が出る、新しい評価制度の導入を試みました。