こうした意識格差の顕在化とともに、ノンエグゼンプトアソシエートと、エグゼンプトアソシエート、さらに拡大して工場の生産現場と、サポート部門の間に目に見えぬ厚い垣根ができていました。

 また、そうした環境のなかで育った中間管理職の多くの人が、現場への参画意識が低く、現場実態を認識できていないということが起きていました。こうしたことから同じ会社に勤めながらも、仲間意識は極めて希薄になっていたのです。

 海外では「会社に対する忠誠心が低い」ということがよく言われます。米国の社会においても例外ではありません。アソシエートにとって重要なのは会社ではなく、自分と家族の生活保障と自分のステータスを生かせるポジションを見つけることです。やりがいのある仕事ができなければ、どんどん会社を移っていきます。

 適正な資格(学歴)を持っているアソシエートや、経験を積んでスキルを習得したアソシエートほどそうした機会を捉えようとします。転職がハンディになる日本では多少の職場環境の悪さ、恵まれない処遇には耐えようという抑止力が働きますが、転職をポジティブに捉えるアメリカでは、経営幹部を含めて一般の日本人とは異なる価値観を持っていることを良く理解していなくてはなりません。

 HAMでも、ホンダの経営方針に魅かれて入社してきた多くのアソシエートが、ホンダの企業文化の変質から、メンター(日本人パートナー)の日本への帰任をきっかけに転職するケースが多発しました。

最後までやり切る意欲は、日本人と同等以上

 一方、コミットメントしたことを最後までやり切ろうとする意欲に関しては、米国人は日本人と同等以上の使命感を持っていると感じました。

 彼らは「約束したことができなければクビ」といわれても止むを得ないという厳しい社会通念を持っているようです。簡単に「できませんでした、すみません」と言えない環境の中にいるので、コミットした仕事は必死にやり遂げようとします。

 反面、そのために高い目標にはなかなかチャレンジしたがらない、という弊害もあります。こうしたローカルアソシエートの良い面を十分に発揮してもらうためには、仕事の目的や背景から説明し、目標の必要性について納得してもらうという努力を惜しまないことが必要です。

 こうした努力は、明確な説明を避け、「阿吽(あうん)の呼吸」に期待しがちな多くの日本人マネージャーには、言葉のハンディもあって、とても負担になるようです。そしてこの努力への認識の低さが、会社設立以来、三十数年という歴史の長い企業でありながら、経営幹部を任せられるローカルアソシエートが育たない大きな原因でもありました。

 のちほどお話ししますが、私がローカルアソシエートを積極的に現法会社の社長に登用したのは、この弊害を取り除くことも大きな目的の一つでした。

「プライド」を持てる環境づくりが必要

 こうしたアメリカ社会の環境やローカルマネージメントの保守化から、ホンダが定着を目指した「機会平等」という考え方が薄れていきました。エグゼンプトと、ノンエグゼンプトの間に、ボディーブローのように「意識格差」が広がっていました。

 さらに、日本人駐在者を通して、「『あるべき姿』よりも効果・効率」「プロセス管理よりも結果管理」といった、ホンダ企業文化のエッセンスにかかわる考え方や意思決定方法の変更がもたらされました。

 その結果、かつての「新しいことにチャレンジしている会社」「現場のアソシエートにもチャンスをくれる会社」といったポジティブなイメージから、「常に厳しさだけを求める会社」というネガティブなイメージが先行する企業風土になっていました。

 しかし、HAMには30年以上の歴史が蓄積してきた大きな財産が残っていました。それは最初にお話しした、一本のボルトを大切にしてくれるようなプライドを秘めたベテランアソシエートです。

 アメリカ特有の通念や価値観を認めながらもホンダ企業文化のエッセンスを生かし、彼らの立場に立って魅力ある環境づくりをすることが、当時のHAMのリーダーとして求められていることであると思い定めました。それを一言で表すならば「プライドを持てる環境づくり」ということです。

 プライドを持てる環境づくりを実現するためのキーワードとして、私は「チャレンジ」「個の活性化」「リスペクト」をキーコンセプトに据え、HAMを足がかりとして、可能な限り北米の生産部門全体の環境造りに貢献できる施策を進めました。ここからはその具体的な施策を説明していきましょう。