山根節(やまね・たかし)氏
1973年早稲田大学政経学部卒業。74年トーマツ入社。80年慶応義塾大学大学院経営管理研究科(慶応ビジネス・スクール)を経て、82年にコンサルティング会社を設立して代表に就任。94年慶応ビジネス・スクール助教授、98年米スタンフォード大学ビジネススクール客員研究員を務める。99年商学博士を授与され、2001年教授に就任。2014年慶応ビジネス・スクールを退職し名誉教授に。同年早稲田大学ビジネススクール教授に就任。2016年早稲田大学ティーチング・アワード受賞。(写真:陶山 勉)

学者が経営者を教えるビジネススクールは矛盾した存在?

経営者と学者は水と油と言いました。今、皆さんが解説してくれたように、学者は過去を分析し、解析し、確率論的な知見を述べる存在です。それに対して経営者は未来を見ている。意志があるから、成功の確率が低いことでもあえて挑戦しようとします。両者は言ってみれば真逆の存在です。カルチャーも違う。
 でも今、皆さんはビジネススクールで学者から教わっています。学者の言うことを聞いているわけです。なんか変ですよね。ビジネススクールというのは経営者を養成する学校です。学者を育てる学校ではありません。でも教えるのは学者です。経営者と学者はスタンスが違うにもかかわらず、です。ビジネススクールって矛盾した存在と言えませんか。どう思いますか。

受講者F:僕はビジネススクールの生徒と教師はプロ野球選手とコーチの関係に近いと思っています。実務家である経営者は実際にプレーをしているプロ野球選手で、ビジネススクールで教える学者はコーチ。野球でいえば、ちょっと変わったフォームでもホームランが打てるという選手もいます。けれど、理にかなったフォームを覚えることで確率は上がる。理論的に正しいきれいなフォームのあり方を研究しているのが学者で、それを教えるのがビジネススクールではないかと思います。

なるほど、いい例ですね。ビジネススクールの学者はスポーツのコーチだと。名監督とか名コーチといわれる人が、みな一流選手だったかというと、そういうことはない。一流選手がいい監督やコーチになるとも限りませんね。役割分担がありそうです。
 では学者が教えるビジネススクールでビジネスの実務能力を養うにはどうすればいいのでしょう。どんな勉強をすればいいのか。皆さんはプレーヤーですから、どのようにコーチを活かすのがいいでしょうか。

受講者G:私はビジネススクールで学ぶ前は副社長として経営に携わっていました。その当時の仕事はおおむね直感、感性、イメージ、気持ち、情熱…そういったもので決めていました。論理的な思考を学びたくて入校しました。ビジネススクールで学ぶことで、自分がイメージしているものを、論理的な思考でしっかり形づくれるようにしたいと思っています。

ロジカルシンキングを学ぼうと。いいですね。ロジカルシンキングはとても大事です。でも、ロジックを追っていっても、ルメルト教授のような過ちを犯すこともあります。正論を現実に適用できないというような経験もあるでしょう。

受講者H:ルメルト教授は自動車業界のことだけをロジカルシンキングした結果、判断を誤ってしまいました。もしかしたら別の領域、別の市場では、飽和状態をブレークスルーした事例があったかもしれません。そこを見逃してしまった。我々は幅広く学ぶことを意識することで、多面的に物事を考える力を養えるのではないかと思います。広い視野とか、他の分野に適用できる知見を得られる。

受講者I:ビジネススクールでは、今はない市場をつくる訓練ができると思います。仮説を立て、検証するということを自分たちの仕事の領域で実務に適用できる。それがビジネススクールにおける一番の勉強のポイントではないかと思います。