(写真・陶山勉)

 慶応義塾大学大学院経営管理研究科(慶応ビジネス・スクール)は次世代の経営の担い手を育成すべく、エグゼクティブ向けに特化した学位プログラム「Executive MBA(EMBA)」を開設している。「EMBA」プログラムの目玉の1つが、企業経営者らの講演と討論を通して自身のリーダーシップや経営哲学を確立する力を養う「経営者討論科目」。日経ビジネスオンラインではその一部の授業を掲載していく。

4月の経営者討論科目では慶応義塾大学の山根節名誉教授が登壇した。慶応ビジネス・スクールでMBA(経営学修士)を取得後、コンサルティング会社を起業し、経営に携わった経験を持つ山根名誉教授は「ビジネススクールを目一杯活かす学び方」をテーマに講義を行った。

 講義は受講者とのディスカッションから始まった。かつてホンダが自動車市場に参入した際、米ハーバード・ビジネススクールの有名教授は自らの研究・分析をもとに「失敗する」と断じた。しかし、その予想に反しホンダ車は米国市場で大ヒット。ホンダは自動車メーカーとして飛躍を果たす。なぜ有名教授は判断を誤ったのか。経営者と学者の違いや、あえてその学者から学ぶビジネススクールの意義などを語り合った。

(取材・構成:小林佳代)

 みなさん、こんばんは。今日は「ビジネススクールを目一杯活かす学び方」と題した講義を行います。

 私はかつて慶応ビジネス・スクールで学びました。MBA(経営学修士)を取得し卒業後はコンサルティング会社を起業して社長を務めました。後に慶応ビジネス・スクールの准教授や教授として教える立場にもなりました。卒業生教員の第1号です。

 今日は、ビジネススクールのユーザーであり、またサービス提供者でもあった私だからこそできるアドバイスをしたいと考えています。

 最初に1つのケースを題材にディスカッションをしていきましょう。タイトルは「ルメルト教授の憂鬱」です。お配りした紙に書いてある内容を読んで、5分で設問に対する答えを考えてください。

ルメルト教授の憂鬱

 ハーバード・ビジネススクールのリチャード・ルメルト教授は『良い戦略・悪い戦略』などの著書をもち、経営戦略論の第一人者と呼ばれる学者である。しかし彼は過去に、自らの研究による確信を根底から覆す判断ミスがあったと認めている。
 1977年に、彼はMBA「経営戦略論」講座の期末試験でホンダのケースを出題した。
 設問は「ホンダはオートバイで成功を収めたが、世界の自動車市場に参入すべきか、考察せよ」というものだった。
 彼はこの問題を学生に点数を取らせるためのサービス問題と考えていた。なぜならば解答は明らかだったからだ。
「イエス」と解答した者には落第点をつけた。
 その理由は、

  • 1)既に市場は飽和状態だった。
  • 2)強力なライバルが、すでに日本、米国、そして欧州にいた。
  • 3)ホンダは自動車に関する経験が皆無に等しかった。
  • 4)ホンダは自動車のチャネルも持っていなかった。

 しかし、その後に起こった現実は、彼を愕然とさせるものだった。
 「1985年、私の妻はホンダ・アコードを乗り回していた」

【設問】
  • 1)実務を担う経営者は往々にして「ビジネススクールの学者はわかっていない」と批判する。なぜこのようなことが起こるのだろうか。
  • 2)経営学とは何だろうか。その役割は。
  • 3)ビジネススクールの学生は、経営をどう学んでいくべきだろうか。
    (注:このケースはH.ミンツバーグ『戦略サファリ』より筆者作成)