「全く新しいビジネスへの転換」を模索すべき時

 もう1つが2サイクルエンジンの問題です。

 2サイクルエンジンは、燃料の中にエンジンオイルを混合し、エンジンオイルとガソリンを一緒に燃やすので、4サイクルに比べ、排気が汚くなります。環境に配慮するならば、4サイクルエンジンへと切り替えていかなくてはなりません。

 実はホンダは当初から環境と効率を重視してエンジンの4サイクル化を進めており、2サイクルはすでに製造販売していません。サブサハラアフリカ(サハラ砂漠より南のアフリカ)など新興国の沿岸漁業向け船外機市場にも、4サイクルで展開中です。彼らが、「環境や燃費で4サイクルの方が、2サイクルよりも良い」と薦める販売戦略を取ると、ヤマハの現行2サイクルエンジンには分が悪いです。

 ヤマハ発はこの危機的な局面をどう乗り越えるのか。

 20~30年かけて、手こぎ船しかなかった地に漁業という産業そのものをつくり上げるという、まさにビジネス生態系をゼロからつくり上げるモデルで、ヤマハ発はサブサハラアフリカで成功してきました。時代の流れを読み、社会の仕組みの中に組み込みながら製品、サービスを提供し、現地の人にとって「なくてはならないビジネス」に育ててきたのです。

 こういうビジネス生態系が出来上がれば、競合企業にとっては大きな参入障壁となります。だからこそ、ヤマハ発はシェア90%を実現できました。

 ただ、このようにビジネス生態系があまりに精緻に組み上げられた時には、全く違う方向からその生態系が突き崩されることがあります。

 ヤマハ発の場合、その1つが漁業界で進む構造変化であり、もう1つがホンダの4サイクルエンジン推進戦略です。全く違う方向から矢が飛んできて、構造が大きく変わり始め、ヤマハ発の競争優位が揺らぎつつあるという状況です。

 ではヤマハ発はどうすればいいでしょう。この危機をチャンスに変えるには、どんな手を打てばいいですか。

受講者:ピアノからオートバイ、船外機と全く違うビジネスに果敢に挑戦してきたヤマハ発なので、また新しいビジネスを考えるのがいいのではないでしょうか。例えば農業とか。新しいスタイルの農業をヤマハブランドで構築していったら面白いと思います。

 次の領域へ出て行く。新事業を創出するということですね。なおヤマハ発も主力ラインはやはり4サイクルエンジンですから、既存顧客に対し、4サイクルエンジンへのスムースな置き換えを図ることも大切ですね。ほかには。

受講者:ヤマハ発自身が「育てる漁業」の方向にビジネスを変えていったらいいと思います。船外機が難しいとなれば、船に関係なく、養殖を手掛けるとか。

 魚を栽培するというビジネスをゼロから起こす。例えば養殖池とかですね。海ではなく地上での養殖ビジネスに出ていく。確かに、開発途上国の水のない地域で魚を養殖するというビジネスは、まだほとんど大規模化されていない青海原です。ヤマハ発が保有する既存のプール事業と、淡水化プラントや砂漠緑化技術を組み合わせるのも、一つの方法かもしれません。

 砂漠で魚をつくる。どの会社も手掛けたことのない、こういう新ビジネスならば「進取の気風」に富んだヤマハ発の眼鏡にもかなうのかもしれませんね。ヤマハ発動機固有の強みを活かした新たな展開に、ぜひ期待しましょう。