一度かかわると、その魅力に取り憑かれる

受講者:事業全体としてのポートフォリオを考えたのではないでしょうか。ピアノというのは経済が発展し、成熟した社会で使われるものです。それに対して、経済が発展途上の未成熟な社会で使われる船外機のような製品を手掛けておきたかった。

 その視点は重要です。新興国での船外機ビジネスだけを取り出して見るのではなく、全体のポートフォリオの中でどういう意味を持つかを考えていくということですね。

 ポートフォリオといえば皆さん真っ先に思い浮かべるのがプロダクトポートフォリオでしょう。それから地理的なポートフォリオ。顧客層のポートフォリオもあり得ます。それに加えて、対象とする市場の経済発展段階にもポートフォリオを考えるべきではないかということですね。
 ほかにはいかがですか。やり続ける理由。

受講者:想像なんですけれど、実際に新興国ビジネスにかかわってどっぷり浸かった人は、その魅力に取り憑かれるんじゃないでしょうか。これ以上ないやりがいを感じて止められなくなる。

 そう。実際、まさに取り憑かれるようです。やりがいや生きがいなど、非金銭的な動機付けが高まりやすいタイプのビジネスなのかもしれません。

 こういうビジネスはものすごく社員個人や組織の能力を鍛えていきます。現場を訪ねた営業担当者から本社の担当者、技術部まで、クレームや要望に基づいて改善・改良のPDCAサイクルがものすごく早く回っているという話をしましたけれど、それも能力向上の1つの事例です。

 新興国市場でも低所得の国々(途上国)は、先進国では常識としてあるものが存在しないことの多い環境です。販売チャネルがあって、ブランドが浸透していて、名刺を持っていけばそれなりに取り扱ってもらえるという市場と対極にあります。そういう場所でゼロからやっていく経験というのは組織にとっても個人にとっても非常に貴重です。組織や個人の力を育成し、成長を促す場としては、こんなに適したところはないでしょう。だからやり続ける。

受講者:簡単に言うと止められなかったというのもあると思います。ヤマハ発が撤退してしまったら現地の人たちは生活に困ります。もうやり続けるしかなかった。ある製品を供給して、シェア100%近くになったら止めたくても止められないという局面もあると思います。

 そうかもしれません。でもそれを理由に止めないというのも大したものですよね。合理的に判断し、市場からぱっと撤退するという会社もいくらでもあります。

受講者:そこは見栄もあったかもしれません。あとは曲がりなりにも利益が出るビジネスになっていたことが大きいと思います。

 現地への責任意識と少なくても確実な利益が背中を押し続けたということですね。