銀行は取引先に「付加価値」を生んでもらっている

受講者:今、中西会長は「利他の心」を持って事業承継支援に取り組んできたとおっしゃいましたが、中西会長の心の中だけでなく、組織全体にその理念が浸透していなくては、銀行としての取り組みは進みません。どうやって理念を浸透させていったのですか。

中西:私が頭取になった時、テレビ、雑誌など色々なインタビューを受けました。そこで「利他の心」などと話すと、当時は鼻で笑われる感じでした。「そんなことで銀行の経営が成り立つのか」と言われたりもしました。

 でも、実際、我々銀行は、自分たちの手で直接「付加価値」を生み出す存在ではないのです。取引先に付加価値を生んでいただいているのであって、我々は付加価値を高めるために必要な要素を見つけるのです。それを自覚してやっていかなくてはいけないということは絶対に伝えたかった。

 では、どうやってそれを組織の隅々にまで浸透させたかといえば、企業サポート部の部長やグループ長らが中心となり、真摯に企業を支援した事例をたくさん作ったことが大きかったのではないかと思います。相手の立場に立ち、気持ちを考えて助けたという事例が積み重なるにつれ、段々と組織の中でもその理念、信念が固まっていったような気がします。

 今では、自分の担当する企業が「業績が悪くなってきたかな。支援しないといけないかな」という時、躊躇する者は少なくなりました。これも時間をかけ支援の形ができてきたからだと思います。

「私が頭取になった時、テレビ、雑誌などいろいろなインタビューで『利他の心』などと話すと、当時は鼻で笑われる感じでしたよ。『そんなことで銀行の経営ができるのか』と言われたりもしました」(写真:陶山勉)

受講者:私はある地方銀行に勤務しています。転廃業の支援は地方銀行としてどうしてもやらなくてはならない事業であると理解しています。一方で、これは決して儲かる事業ではない。伸び盛りの企業を担当している行員、高収益の事業を手掛けている行員などと比べると、モチベーションが上がらない面があるのではと思います。担当者のモチベーションを高く保つためには、人事や業績の評価の面で工夫が必要なのではないかと思いましたが、静岡銀行では何か手を打っていたでしょうか。

中西:部署や仕事によっては表舞台で活躍して脚光を浴びる人もいれば、目立たないところで地道に活動する人もいます。どんな人にもモチベーションを高く持って担当業務を遂行してもらうには、自分が所属する部や課が「何のために」「何を目的に」「何をやるのか」という使命や存在意義を明確に文章にしておくことが重要です。

 私が企画部長の時には、銀行内の48グループすべてのミッションをつくりました。そのミッションを達成するために、3年間の中期経営計画、1年間の事業計画も作成し、一人ひとりの社員がやるべきこともわかるような形にしました。評価については、その計画が遂行できているかで決めます。

 ミッションに対する目標設定は半年ごとに行うため、事業承継を担当するグループは、これからの半年でどういう事業承継を行っていくかを具体的に書き、ミッションと計画が合っているかどうかを、経営企画部が承認するまで徹底的にやり合います。そして評価については、半期が終わった時点で自己評価し、部長に承認をもらい、さらに担当役員にも承認をもらいます。

 中には自己評価は「A」なのに経営企画部が「C」とつけるようなケースも出てきます。私が頭取時代には、それらの評価シートを全部読み、全員と面接をして評価をし直したり、当人たちの納得感を醸成したこともありました。

 事業承継の仕事は支店長を経験した50歳を超える行員が携わることもあります。その人たちが退職する時、私に「最後に銀行員らしい仕事ができました」「こういう仕事ができて良かった」と言ってくれた時はとても嬉しかったですね。そういうことを言ってくれる行員は、本当にありがたい存在ですし、誇りに思っています。