最後まで礼を尽くすことは、人間として当然のこと

受講者:業績が悪化した取引先企業の転廃業を支援する際には、「債権放棄」も必要となるため、銀行にとっては、どちらかと言えば後ろ向きの対応が迫られる局面ですし、他で収益を確保しなくてはならないというプレッシャーも重くなると思います。そういう中で、「付き合いのある取引先企業は、最期まで看取る」「臨終の席に居合わせる」という信念を貫き、支援を続けることができたのはなぜでしょうか。

中西:私は52歳で頭取に就任しました。その時から、経営の指針として発信し続けてきた言葉が「利他の心」です。銀行という商売は我々自身が何かをつくり出して利益を生み出すものではありません。お金を融通しながら、取引先に付加価値を生んでもらうことで我々も利益を得ています。銀行員はまずそのことを認識しなくてはならないと思います。

 企業には「黎明期」もあれば「成長期」もある。そして最期の「臨終」もあるわけです。臨終に至らずにうまく生き抜く企業もあるけれど、残念ながら終わりの時を迎える企業もある。お客様と1対1で付き合っているのですから、最期を迎える時にもきちんと礼を尽くすべきでしょう。ビジネスの前に1人の人間として、そうすべきだろうと思います。

 ところで逆に質問です。皆さんは、住宅ローンを借りたことはありますか?

受講者:いいえ、私はまだないです。

中西:住宅ローンの契約にあたっては、借りたい人と貸したい人が一生懸命、真剣に話をするものです。ところが無事にローン契約が決まり家を購入した後は、たいていの場合、お客様と貸し手の担当者は二度と会う機会はない。それは銀行では当たり前のことでしたが、私は、それではいけないと考えました。

 このため我々の銀行では、お客様の住宅ローンが完済した時には、必ず支店長や役職者が記念品を持って、「長い間ありがとうございました」とお礼を言いに行くようにしています。そうやって最後まで見ていくことは当然の礼儀だと思います。同じことを企業に対してもやろうとしているだけです。

 もちろん、取引先が倒産してしまうよりも、転廃業によって何らかのものを残すことが地域経済の貢献になるという面もあります。雇用を守ることができるとか、一部の債権は放棄しても残りは時間をかけてお返しいただくとか。そうして地域経済を守り活性化させることをいつも念頭に置いています。

「お客様の住宅ローンが完済した時には、必ず支店長や役職者が記念品を持って、お礼を言いに行くようにしています」(写真:PIXTA)写真はイメージです