慶応義塾大学大学院経営管理研究科(慶応ビジネス・スクール)が次世代の経営の担い手を育成すべく、エグゼクティブ向けに開設している「Executive MBA」。1月の経営者討論科目では静岡銀行の中西勝則会長が「事業承継支援について~業績悪化先に対する静岡銀行の取り組み」をテーマに講義を行った。
講義の後半には、中西会長と受講者との間で質疑応答が繰り広げられた。銀行にとって、業績が悪化した取引先の事業承継支援は、時に債権放棄も必要な後ろ向きの対応が迫られる局面と言える。その中で「企業の最期まで看取る」という信念を貫くことができたのはなぜか? 中西会長は「利他の心」という言葉を使いながら、付き合いのあった取引先企業に礼を尽くすことは「ビジネス以前に、一人の人間として当然」と思いを語った。
(取材・構成:小林佳代)

静岡銀行会長
1976年3月慶応義塾大学商学部卒業後、同年4月静岡銀行に入行。富士宮北支店長、三島支店長などを経て1998年12月人事部副部長兼人事課長、1999年4月理事人事部長に就任。2001年6月取締役執行役員経営企画部長、2003年6月取締役常務執行役員、2005年4月取締役常務執行役員企画・管理担当経営統括副本部長を歴任。同年6月取締役頭取に就任する。2017年6月より現職。2011年6月から12年6月、2016年6月から2017年6月と、2度にわたり全国地方銀行協会会長を務める。(写真:陶山 勉)
受講者:「業績が悪化した企業であっても、事業をよく調べてみると『宝石』がある」というお話がありました。実際にこれまで、企業の再生や事業承継に携わってこられた中で、中西さんが次世代に引き継ぎたいと思った「宝石」にはどのようなものがありましたか。「技術力」「ビジネスモデル」…。色々あるかと思いますが、いくつか教えていただければと思います。
中西:残したい技術も、ビジネスモデルもありました。
例えば先ほど、「再生」の事例でご紹介した地方鉄道は、もともと山奥のダムに資材を運ぶ商業鉄道でしたが、徐々に観光鉄道へと、ビジネスモデルを変えていきました。しかし、その新しいビジネスモデルが「宝石」であることに、経営者自身が気づいていませんでした。最終的に、それを見つけてくれた人がいて、そのビジネスモデルを軸に再生を果たすことができました。つまり、優れた宝石を見つけ、それを梃子に再生を図っていくことが非常に重要なのだと思います。
受講者:経営が厳しくなった企業の中で、銀行員の方々はキラリと光る「宝石」をどうやって見つけているのでしょうか。多様な企業を数多く見る経験をしてきたから、見つけることができるのか。それとも見つけることが上手な人を配置しているのか。その辺りを教えてください。
中西:企業の組織の中にいると、自分たちのよいところ、つまり「宝」というのは意外とわからないものです。一方で、外から客観的な立場で企業を見ると、そうした宝を見つけやすい。例えば、下請けで研磨作業を行っている企業があるとします。その企業の社員の方々はその技術は至極当たり前のものだと思っていますが、他の企業から見ると、実はとても貴重な素晴らしい技術であるということはよくあります。特に我々銀行員は多様な業種、数多くの企業を見ているため、その技術の本当の価値やレベルを評価できます。だからこそ、宝を見つけることができるのだと思います。
私の経験から言って、特に自動車関係の下請けメーカーには光る宝が多かったですね。電機が0.1ミリ単位の技術だとすれば、自動車はミクロン単位の技術ですから。
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