静岡銀行が事業承継を支援した様々なケース

 ここからは、実際に静岡銀行が事業承継を支援した事例を、幾つか紹介させていただきます。

 地方鉄道のA社には私的整理を活用したM&Aを実施しました。A社は観光鉄道が売り上げの8割を占める小さな鉄道会社です。毎年赤字が発生するようになって親会社の鉄道会社から役員が送り込まれ、資金も投入されていました。静岡県も毎年予算を付けて支援していました。

 苦境に陥った要因は周辺地域の過疎化や、モータリゼーションによって通学や通勤の利用客が減ったこと。法規制の強化も影響し、東京から来る観光客が減って観光鉄道部門の売り上げが減少したことも痛手でした。観光が売り上げの中心だったにもかかわらず、経営陣が誤った経営戦略を立てていたことも影響しました。一部の金融機関から全額弁済を要求されたことを契機に、私的整理を活用したM&A支援を行いました。

赤字の地方鉄道を再生、利用客も増加

地域住民の足として必要不可欠なインフラである地方鉄道の事業継承を支援。利用客はやがて増加した。(写真:whitestone/123RF)※ 写真はイメージです
地域住民の足として必要不可欠なインフラである地方鉄道の事業継承を支援。利用客はやがて増加した。(写真:whitestone/123RF)※ 写真はイメージです

 我々はA社を地域住民の足として、また観光資源として地域に必要不可欠なインフラであると位置づけ、正しい経営戦略を構築すれば業績回復も可能であると判断し、考え支援を決めました。

 銀行団がバンクミーティング(当該企業の関係者と債権者である金融機関が一堂に会し、今後の方向性を決める会合)を行い、複数のステークホルダーに対して債権放棄をお願いした上でスポンサーを探しました。地方公共団体とも事前の調整を行い、色々と候補に挙がった中から最終的には東京のファンドに買収してもらい事業承継を実現しました。

【方向性】
<span class="font_bold_big">【方向性】</span>

 我々は約4億5000万円の債権を放棄しましたが、こうした取り組みの結果、今もA社は順調に事業を続けており、150人以上いた従業員全員の雇用も維持できました。このように地域の足を守り、影響を極小化することができ、しかも、新しい経営体制の下で観光情報の発信も活発になり、利用客数も増加、地域経済の活性化に寄与した形となっています。

民事再生を活用して、住宅設備製造会社を存続させる

 法的整理を活用したM&Aを支援したのが住宅設備製造のB社です。B社は高級な浴室をOEM生産(相手先ブランドによる製品の生産)しハウスメーカーに納めていましたが、OEM先の1社が減産したことに加え、中国の現地法人への生産移管も失敗。他のOEM先が中国製の製品を受け取らなかったことも影響しました。B社の経営者は「ものづくり」に一生懸命でしたが、言われるままの価格設定で、次第に資金繰りも厳しくなり、窮境に陥ってしまいました。

 しかし、B社は特殊製造技術を持っています。大手住宅設備メーカーの大多数と取引があり、依然、必要とされる企業です。そこで我々は民事再生を使いスポンサーを探しました。最終的にはOEM販売先の1社が資金を出してくれたことで存続できました。中国の現地法人は、良いものづくりができなかったことや、為替が元高になって事業継続のうまみがなくなったことから清算しました。

 我々も債権を2億円ほど放棄しましたが、結果的に雇用や地域の取引先などを守ることができた事例です。

「事業の継続が困難な状況にあるということすら理解されていない経営者の方に、転業や廃業を納得してもらうのにはとても時間がかかります。けれども、そのコンセンサスを得ない限りは先に進むことはできないのです」 (写真:陶山 勉)
「事業の継続が困難な状況にあるということすら理解されていない経営者の方に、転業や廃業を納得してもらうのにはとても時間がかかります。けれども、そのコンセンサスを得ない限りは先に進むことはできないのです」 (写真:陶山 勉)

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