経営者の住む家は残すように、できるだけ努力する

 2008年には「転廃業についてのマニュアル」を作成しました。このマニュアルをもとに企業サポート部のメンバーが支店長会などに出かけて説明をします。そして転業や廃業へ向けて、どういう姿勢や心構えでお客さんと向き合っていくべきかを、まず共通認識として共有するようにしています。

 当初、金融庁の方から「廃業を推進するかのようなマニュアルを作るのは、良くないんじゃないか」と言われたこともあります。しかし、今では金融庁は金融機関に対し、「廃業もしっかりと支援すること」と指導していますから、我々の考え方はあながち間違っていなかったのだろうと思います。

 転廃業マニュアルで最も重視するポイントは、一人ひとりが「最期をしっかり看取る」という意識を持つことです。そのほか、資金繰りが悪くなる兆候や気をつけるべき経営者の言動など、具体的なノウハウもマニュアルに盛り込んであります。とくに私が最初に支援した後輩のケースのように、経営者の住む家をなんとか残すことは切実な課題であり、できるだけその努力をすべきであると、記載しています。

転廃業より“玉砕”望む経営者を説得

 もちろん、口で言うほど転業や廃業は簡単なものではありません。

 とりわけ老舗企業を継いだ経営者は、そもそも転業も廃業もしたくない。それ以前に、事業継続が困難な状況にあるということすら理解していないケースも多く、ギリギリまで現状の延長線上で事業の継続を図ろうとします。そのため自社の状況を客観的に把握し、事業継続が困難であることを理解した上で、転業や廃業を納得してもらうためには、とても時間がかかります。けれども、そのコンセンサスを得ない限りは先に進むことはできません。

 静岡県内には老舗のお茶屋さんやお菓子屋さんなどが多いのですが、中には「転業や廃業をするぐらいなら倒産して玉砕した方がマシ」とおっしゃる経営者もいます。そういう場合は、経営者と正面から向き合い粘り強く折衝するとともに、転廃業に対する不安を可能な限り払拭することが重要です。転廃業マニュアルにはそういう時に踏むべきプロセスも盛り込んであります。

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