慶応義塾大学大学院経営管理研究科(慶応ビジネス・スクール)は次世代の経営の担い手を育成すべく、エグゼクティブ向けに特化した学位プログラム「Executive MBA(EMBA)」を開設している。「EMBA」プログラムの目玉の1つが、企業経営者らの講演と討論を通して、自身のリーダーシップや経営哲学を確立する力を養う「経営者討論科目」。日経ビジネスオンラインではその一部の授業を掲載していく。
医療情報のネットワーク化を進めるメディカル・データ・ビジョンの岩崎博之社長が1月に授業を行った。ベンチャー企業の20年後の生存率0.3%という衝撃的なデータを示した上で、成功するベンチャーを目指す際の心がけを説いた。
(取材・構成:小林 佳代)

メディカル・データ・ビジョン代表取締役社長
1960年生まれ。1986年新日本工販(現フォーバル)入社。1988年アレック代表取締役就任。1994年アイズ常務、1997年クーコム常務、2001年システムアンドコンサルタント取締役などを経て、2003年メディカル・データ・ビジョンを設立し代表取締役に。2014年同社代表取締役社長に就任、現在に至る。(写真:陶山勉、以下同)
ベンチャー企業の成功と失敗を分けるもの
ベンチャー企業の生存率を示すデータがあります。創業から5年後は15.0%、10年後は6.3%。20年後はなんと0.3%です。非常に厳しい。
では成功するベンチャーと失敗するベンチャーの差はどこにあるのでしょうか?
ベンチャー企業の社長に「なぜ起業したのか」と聞くと、ほとんどの場合、残念ながらカネ儲けが目的です。「これをやれば儲かる」と考えて脱サラして気の合う人と会社経営を始める。こういう話が多いですね。
けれど、実際のところベンチャー企業というのはそう甘くは儲かりません。たとえどんなに素晴らしいものをつくったとしてもブランドの確立されていない商品を消費者は、特に日本人は、なかなか買いません。何か特別な流れに乗って急激に売れるということはあるかもしれませんが、基本的には簡単に儲かるものだと考えない方がいい。
成功している起業家の共通点
とはいえ、一方で起業後、会社をどんどん成長させ、世界に羽ばたいているという社長もたまにいます。そういう方たちと話していると共通点が2つあることに気づきます。
1つはカネ儲けではなく業界、社会、ユーザーに影響をもたらしたいという目的があること。
もう1つは社会性のあるビジネスを展開しているということです。
カネ儲けを目的にしてスタートすると、ベンチャー企業は儲かりませんからすぐにそのビジネスを止め、スタートラインに戻って違うことを始めてしまいます。いわば、創業を繰り返すことになります。
一方、社会に影響をもたらしたいという目的で始めた起業家は自分が進むべき道がはっきりしていますから経営を継続し、コツコツと1歩ずつ前進して目標に近づいていきます。童話に出てくるウサギとカメのようなもの。投資家からみてどちらが信用・信頼できるかといったら圧倒的に後者です。
ベンチャー企業の経営者として自分は何をしたいのか
メディカル・データ・ビジョンは起業後5年数カ月、赤字続きだったと説明しました。逆にいえば、その間もお金を集めることができたからこそ5年間、経営を続けることができたということになります。毎月赤字の会社でありながらも、私は12億円ぐらいのお金を集めることに成功しています。
ベンチャー企業の経営者として自分は何をしたいのか。社会にどういう影響を与えたいのか。成功するベンチャーを目指すなら、起業前にこれらの点を突き詰めておくことがとても重要です。
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